世の中、過激な正論にあふれている。
以前、TVの討論番組で、ある国際政治学者が、『安保法制』論争についてこんな事を言っていた。
『これまで、ごまかしAとごまかしBが存在していて、どちらかと言ったらごまかしAの方がいいよね、っという事なんです』
まさにこれ。
今までもずっと違憲だったし、ごまかしAとBの間でバランスをとってきたという歴史の中で安全を死守してきたんだなぁと。平和とか安全とかを語る時に、もう正論だけで突き進めない世界になっている事を、実感せざるを得ないとつくづく感じた。
そして、これらは時代を経て形を大きく変え、私達の頭を悩ませる。
国と国とが闘う冷戦時代を終えた世界は、まさに今、国も憲法も持たないテロリストとの闘いに苦しんでいる。
アメリカで起きた『9.11』のテロ以来、世界中の諜報機関でテロ対策チームが強化され躍起になっている。
本作は、ドイツのハンブルクを舞台に、対テロ諜報チームを率いる男がテロリストの資金源となっている者の正体をつかんでいくという物語。
一般的には公になっていない影のスパイチーム。
銃撃戦は1つもないのに、終始、張り詰めた緊張感が漂うサスペンスが素晴らしかった。シナリオも面白い。
全体的に渋くて好みの作品だった。
チェチェンからドイツに不法入国した、ジハーディスト(イスラム過激派のテロリスト)の容疑をかけられた青年をめぐって、ドイツの諜報機関チームとアメリカCIAとの対立。
正統派ではないが、どこか人間的な方法で解決しようとするドイツの諜報員の主人公の巧みな捜査は、サスペンスタッチで進み、非常に見応えがある。
とにかく、主役のホフマンの演技と存在感が素晴らしい。
映画『カポーティ』の印象が強く(笑)、最初そのイメージから抜け出せなかったが、ラストシーンの“やってらんね~”感がすごい迫力だ。
左派の人権派の美人弁護士(レイチェル)の描き方も、なかなか渋い。ジハーディストの容疑をかけられた青年の力になるが、結果『ごまかし』とも言えるグレーな方法で彼を救うしかなくなってしまう。
矛盾をはらんだ世界の中で、矛盾を承知しながら、個々の安全を守らなければならない時代。出口が全く見えない、なんとも言えない恐ろしさに世界が包まれているような気がする。