オーウェン

鬼の詩のオーウェンのレビュー・感想・評価

鬼の詩(1975年製作の映画)
3.5
村野鐵太郎監督のATG映画「鬼の詩」は、藤本義一の直木賞受賞の小説の映画化で、明治末期の大阪の実在の落語家・桂馬喬をモデルにして、芸の鬼の凄まじい生き方を描いた作品だ。

若い頃の馬喬(桂福團治)は、寄席の仕事ができない時は、女房(片桐夕子)と二人で田舎を門付けして回る。
惨めな芸であり、そういう境遇の中からこそ、彼は差別と深い関係にある、日本の大衆芸能の精神を摑みとる。

彼の芸熱心は狂的で、陽気で華やかな芸風の先輩落語家・桂露久(露の五郎)の芸を盗もうと必死になる。
しかし彼は結局、高座で馬糞を食ってみせるというような、自虐的なやり方で評判になる。

妻が死に、自分は天然痘でアバタ面になると、そのアバタの一つ一つにキセルを引っ掛けて吊るすという自虐ぶりなのだ。

物事にとことんムキになる人物に対する村野鐵太郎監督の執着は、この作品で一種異様な人間像を作り出すことに、ある程度は成功していると思う。

また、それが、商業映画の単純なヒロイズムの枠から大幅にはみ出して、一途であることの悲惨と、一途であらざるを得ない境遇や立場の残酷さというところまで、くっきりと描き出すところまで行き着いたことによって、村野鐵太郎監督の独自の世界が確立されていると思う。

ただ、この主人公の自虐的な態度の描き方は、あまりにストレートで余裕がなく、感動するより先にまいってしまったという印象だった。

もっと豊かなふくらみというか、そうした一途さや自虐が、ただ悲惨に見える状態を超えて、そこに、もっとおおらかに自信を持って腰を据えるような世界が現われて欲しかったと思う。
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