JiNCHi

シャングリラ、天国の誘惑、罪の楽園のJiNCHiのレビュー・感想・評価

4.2
最高の映画体験をした。

最高のロケーションで、大好きな人と一緒に気の向くまま、欲望のままキスしてハグして、ハッパやドラッグに浸る。最高の音楽に体を揺らす。
ネガティヴなことは何もなく、周りにいる人と通じ合えているような気持ちになる。人間や自然がもっと好きになる。生きていることに感謝したくなる。

そんな楽園のような世界をどうしても夢見てしまうのは私だけではないはずだ。私の場合、すべてを忘れてただただ快楽に溺れたいという意識が少しだけ強い。けれども、多かれ少なかれ誰しもがそんな欲求を持っていると思う。

実際にはそんな世界はないのかもしれない。トレインスポッティング などのドラッグを要素にした映画と同じく、この映画でもドラッグによる悲劇や喪失が描かれる。楽園かと思われた世界に、避けがたいバッドなマインドや出来事が這い寄ってくる。

快楽や欲望に忠実に生きるとはどういうことなのか。それは人を幸せにするのか。快楽とは本質的に刹那的なもので、長くは続かないものなのか。ドラッグは人間にとってよいものなのか。ネガティブをすべて取り去った先には私たちの望む世界が広がっているのか。

わからない。

けれども、誰もが幸福で、互いに傷つけ合うこともない、ただただ自由で、愛が溢れている、少なくともそんな気分を皆が共有しているようなそんな世界を私は夢見てしまう。そんなユートピアを希求する気持ちそれ自体を、この映画は肯定してくれている気がした。ドラッグの見せた夢はたしかに幻想でしかなかったのかもしれない。しかし私たちは幻想を含めた現実を生きている。ほんの一瞬でも、そこには楽園の片鱗があったのだと、そう信じたくなる。砂上の楼閣のように幻想が脆く崩れ去っていく様は切ない。その切なさが楽園への志向をより強めさせる。

光とビート。海風。波の音。愛する人。酒。ドラッグ。
映像媒体であることを忘れさせられるほどに没入し、実体験しているような感覚が得られた。最高の映画体験だった。
JiNCHi

JiNCHi