りょう

アメリカン・スナイパーのりょうのレビュー・感想・評価

アメリカン・スナイパー(2014年製作の映画)
3.6
 数年ぶりに観ましたが、よくできた作品です。戦場を舞台にしたエンタメとしても、そこで心の傷を負った兵士とその家族の人間ドラマとしても…。クリント・イーストウッド監督はほとんど演出しないらしいですが、映画としての完成度は素晴らしいです。
 ただ、当時は賛否両論だったことも納得です。個々の印象や解釈は区々でしょうが、個人的には反戦映画として理解するには無理がありました。クリス・カイルは戦友を失ったりしますが、戦場の悲惨さや戦争のネガティブな側面を強調するよりも、彼が活躍する描写があまりに“ヒーロー”っぽいです。彼が完全に帰還してからのパートが短尺すぎるし、PTSDや退役軍人の障がいなどは、もっと辛辣な表現で深刻さを強調すべきテーマのはずです。
 エンドロールの実録映像では、アメリカの国民性や慣習でしょうが、はためく星条旗が強調されて、愛国心を誇ったり煽ったりしているようにしか思えません。よくも悪くもクリント・イーストウッド監督っぽい表現です。
 類似の作品として比較される「ハート・ロッカー」のキャスリン・ビグロー監督なら、「ゼロ・ダーク・サーティ」の要素も含めて、この物語にふさわしい演出ができたかもしれません。
 アメリカは、2021年にアフガニスタンから完全に撤退しました。ウクライナへの支援が息切れしはじめている一方で、イスラエルによるパレスチナ侵攻を支持するダブルスタンダードが非難されています。ナショナリズムの台頭もあり、2024年の大統領選挙の結果しだいでは、覇権国家としての地位も揺るぎかねません。そんなことを想うと、イラク戦争の歴史的な検証もないまま、この作品から反戦のメッセージを感じることができませんでした。
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