垂直落下式サミング

ヴィヴィアン・マイヤーを探しての垂直落下式サミングのレビュー・感想・評価

3.5
自身の作品を発表することなく大量のネガを残してこの世を去った写真家ヴィヴィアン・マイヤーの半生を追うドキュメンタリー作品。彼女の写真をオークションで偶然入手したジョン・マルーフが彼女の足跡を辿っていく。彼女は変人?それとも天才?
歴史に埋もれていた才能を世に公表するのは意義深いとことだと思う。マイヤーの作品はとても格好いいので、ググってみることをおすすめします。
ただ映画が進んでいくと、ヴィヴィアン・マイヤーという女性の人生に興味が湧いてくる一方で、ネガの発見者マルーフ青年のことは嫌いになってきてしまう。彼のエピソードは「ネガを手に入れた経緯」「ブログの反響」くらいでいい気がした。
極めて個人的な主張が作品の前面に表れてしまう作り手は、ドキュメンタリー監督に向いていない。彼は不世出の芸術家を俺が発見したという自己陶酔から抜け出せていないように感じた。張り切っていることはわかるが、彼の言動からは「このチャンスをものにしてやる」「この作品で有名になってやる」というギラギラした野心が見え隠れする。ドキュメンタリーって怖いですね。観客には撮ったもの全部そのままが伝わってしまう。
マルーフ監督の人間性がキャラクターとして魅力的なら問題ないが、自惚れの皮肉屋では好感が持てない。『アホでマヌケなアメリカ白人』のDVDを悪意をもって映す場面は本当に嫌なものを感じた。
マイケル・ムーアの場合は、彼が意識的に頭のおかしいデブな活動家を演じているから痛烈な皮肉もそれほど嫌に感じないんですけど、マルーフのユーモアは尖ってばかりで可愛いげがないんですよね。そんな調子だから調査の末にマイヤーの真意が明かされる場面が手前勝手な自己正当化に見えてしまう。
特に「お偉方は彼女の写真を認めようとしない」というアート界批判のナレーションはあまり感心しない。芸術家のプロモーションという名目なら「マイヤーの作品は素晴らしいものだ」っていうポシティブな主張だけで充分なはず。一丁前にMoMAを批判する前に、ヴィヴィアン・マイヤーの独創性や魅力を世に知らしめることにこそ尽力すべきだと思う。マイヤーと彼女の作品は好きになったけど、発見者のマルーフは好きになれなかった。っていうかハッキリと嫌い。