垂直落下式サミング

紀元前1万年の垂直落下式サミングのレビュー・感想・評価

紀元前1万年(2008年製作の映画)
3.5
氷河期が終わりに近づこうとしている先史の部族社会。狩猟民族の村に暮らす青年の恋人がさらわれてしまう。戦士たちを率いて、恋人奪還の旅に出るが、その先には、見たことのない獰猛な野獣や、未知なる文明が待ち受けていた。
ローランド・エメリッヒ監督作品。ピラミッド建造のため家畜化され、人間に鞭で打たれるマンモスというビジュアルが印象に残る。
なんだか懐かしい。そう言えば、ビッグバジェット歴史大作で、ちょいオカルトも入ってる系とは最近ご無沙汰だった。メジャー大作として、このテのはあまり作られなくなったようなので、都市伝説好きとしては一抹の寂しさを覚えなくもない。けれど、有ればあってもいいけど、無ければなくても困らないような作品ではある。
主人公は、落とし穴に落ちたサーベルタイガーの生き残りを助けるなど、動物に優しい選らばれしもの。剣歯虎と話した救世主となることで、窮地を脱し仲間を獲得していく。
まあ、展開もキャラクターも、これといった特徴がなく類型的だが、こういった作品があまり作られなくなった今となっては、彼の無個性さに安心しながら鑑賞できる。
一番好きなのは、救世主の到着を聞きつけた部族の戦士たちが、今こそ彼に続けと集まってくるところ。虐げられた少数部族たちが束になって、巨大な帝国に一矢報いようと立ち上がるのはアツい!
仲間が奴隷におとされそうになるのを救出するってなわけで、古くからある史劇ものの王道を踏襲。『スパルタカス』と『アポカリプト』のパクリなのはいいんだけど、演出に熱さと泥臭さが足りない。
役者が小綺麗。有史以前のおはなしであろうに、荒野を行く男たちは毎日口ひげが整っており、毎日お風呂入って歯磨きしてるような健康体の役者さんがやってらっしゃる。石鹸の香りしそう。真っ白い歯の口臭もミントのフレグランスがするのでしょう。
そこんところは、気持ちのいい思い切りのよさで「土人(死語)のハナシなんやから、先住民の血入ってるやつに演技させるっしょ!生肉も食べてね!」って出来ちゃう狂人メル・ギブソンと、ずっとオトナのシゴトしてしてらした職人エメリッヒさんの差。
お味薄めだが、古典的なゆきてかえりし物語が、けっこうタイトな尺に収まりきっているのは美点だと思う。ランタイムばかり長くなりがちなこの題材にしては、109分と短くまとまっていて観やすい。感動とかしたくない日にちょうどいい映画。