あまのかぐや

ロック・ザ・カスバ!のあまのかぐやのネタバレレビュー・内容・結末

ロック・ザ・カスバ!(2015年製作の映画)
3.5

このレビューはネタバレを含みます

音楽の力は異文化の壁を越えるか?!って話かと思ったら
ビル・マーレイの「ビルマーレイ力(りょく)は異文化の壁を越えるか」って話でした。

落ち目のハリウッドの音楽マネージャーが、背水の陣で戦時下のアフガニスタンに米兵の慰問の仕事を請け負う。現地で唯一のお抱えカバー歌手に逃げられ、無一文で放り出されるも持ち前のいいかげんさと胡散臭さ、空気を読まない「ビル・マーレイ力(りょく)」を駆使して難局を乗り切る話。

アフガニスタンの交戦地帯。武器弾薬をもってして自らを守る生き方を貫く部族の首長の娘が天使の歌声をもっていた。弾薬輸送のアルバイトにひょんなことから足を突っ込んでしまったビル・マーレイと少女は、砂漠の砦で運命の出会いをする。

とはいってもこれ、はじまって1時間以上たってやっと少女と出会っていたので、この先30分やそこらでどうやって収拾つけんのさ、と観てる方もドキドキしましたよ。

カブール市内で人気のテレビショー「アフガン☆スター」という、まんま「アメリカンアイドル」風なオーディション番組に彼女をひっぱりだそうとするビル・マーレイ。

イスラムの法を侵し、女性が顔をだし、人前で歌を歌うという禁忌の壁を、まず少女がどうやって乗り越えるのか、と思ったら、けっこうあっさりしてた。
ビル・マーレイの車のトランクに隠れて「アフガンスターに出たいの、これで殺されたとしてもそれがアラーのご意志」ってな感じで村を飛び出してくる。

カラシニコフを携えターバンを巻いた、絵にかいたような中東の好戦的な民族がそこここにいる中、数々のピンチな場面にビル・マーレイが出くわすとほんとにドキドキする。いくらビル・マーレイでも切り抜けられないでしょう、これは、と、かなりハラハラする。たぶんビルマーレイじゃなかったら5回ぐらい死んでる。そのあたりが見どころでもあります。

そして、カルチャーギャップというにはあまりに重い、命をかけたチャレンジである物語を、ビル・マーレイ力(りょく)をもってして、アメリカンカルチャーが平和のシンボル、イスラムの女性に愛と勇気と歌を、なーんて都合のいい話に収めてしまった、という批判もありましょうが、わたしは単純なもんですから、この少女の歌声と、歌っているときの表情にやられました。

「異端者」「恥知らずな娘」という世間の目と、郷里の父も自分も殺される覚悟で、という葛藤の中で一生懸命じぶんの心を奮い立たせているかのような表情。

一般人レベルでも(一般人だからこそ)あまりに深く浸透しているイスラムの戒律を理解しようと頑張って観ていたけど、やっぱりアメリカ人と彼らのその溝は埋まりそうもなく。
ティーンの女の子がキメ顔つくりながらぴらぴら短いスカートで踊りまくる日本の国民には、さらに遠い遠い精神世界を感じました。いろいろ雁字搦めなイスラムの女の子たちに自由と歌を、なんて突飛な発想、それじたいドラマ的だとは思います。けど、彼女たちをアメリカ的エンタメの光の元へ引っ張り出すのが良いことなのか悪いことなのか、わからない。それすらうまく感想として述べられないのか口惜しい。いずれにしてもコメディにするにしても社会派に描くにしてもどちらにしても言葉足らずなぐらいの尺でした、って話だ 。

ただひとつ。「アフガン・スター」は、アメリカ的エンタメ番組だけど、カブール市民のための番組、観てるのはすべてイスラムの戒律を守って生活してる人たちって設定がポイントだと思いました。

二番目にクレジットされてたケイト・ハドソンおばちゃんが、一人アフガニスタンで頑張る売れっ子高級娼婦役ってのがみょうにはまってるしエンタメ要素をいっきにかぶってくれてた。ブルース・ウィリスはなんだったんだろう、すごい脇役。でも謎の傭兵かつ用心棒って似合ってるし(役名はボンベイだかムンバイだかポンペイだか最後までわからず)、らりったままBMの財布とパスポートパクって失踪したシェール似のカバー歌手がズーイー・デシャネルちゃんだったなんてエンドロール観るまでわからなかった。すごい役だな。

ちなみに原題「ロック・ザ・カスバ」は80年代UKチャートをご存知の方には懐かしい「The Crash」のヒット曲で、わたしもこのグループの曲ではこれと「London Calling」が大好きでした。ビル・マーレイがアフガン公演に出かける前に別居する娘に「カスバは北アフリカの都市よ」と教えられたように、特にアフガ二スタンとは関係ない(笑)

しかしよく考えてみたらこれ、イスラムの聖職者にロックを歌わせ踊りまくらせるという、かなり危ない社会風刺PVだったなぁ、と今になって思い出した。「カスバ」って地名っていうよりイスラムの戒律を城壁として守られた地域の象徴かなぁって気もします。

そのほか「Knockin' on the Heaven's Door」とか、少数民族の砦で「ウルルン滞在」するビル・マーレイが歌う「Smoke on the Water」などのサントラも、けっこうツボな選曲でよろしいかと思いました。
なかでも特筆すべきは、少女が「アフガン・スター」の中で、初めて人前で歌うのがCat Steavensの歌ってこと。彼は70年代にイスラムに改宗したことで有名だそうですね。そういう背景をしらなくとも彼女のうたう「Wild World」は素晴らしかった。
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