イルーナ

ヴィンセントのイルーナのレビュー・感想・評価

ヴィンセント(1982年製作の映画)
4.6
鬼才ティム・バートンの、記念すべき監督デビュー作。
「処女作にはその人のすべてが表れる」と言いますが、ええ、本当にその通りです。
彼の、後の作品にもつながる作家性というのがこれでもかと現れている。
幼いころからの憧れはヴィンセント・プライス、エドガー・アラン・ポー、怪物たち……
とりあえず早熟というか、相当ませた趣味の持ち主だったのがうかがえる。
ギョロ目に痩せぎすの主人公、デフォルメされまくった怪物はもうこの頃から作風が確立されていたのか!と驚かされます。
OPの、平面的な猫のアニメから立体的なストップモーションに転ずる瞬間からして才能の片鱗を感じるし、ラストの怒涛の妄想っぷりは本気でゾワゾワ来るほど。

ですが、高校時代に『ジャイアント・ピーチ』のビデオに収録されているのを観た時は、作風の落差も相まってもう滅茶苦茶怖かった印象でした。
「え……何これ?訳わからん……怖い怖い怖い!」ってなってました。
どんどん妄想と現実の区別がつかなくなって、しまいに現実との接点がなくなるかのような展開が怖かったのかもしれません。
観終わった後、ヴィンセントと同じように、あの暗闇の中にぽつんと取り残されたような気分になったよ……
あまりに悪夢じみていて、当時はこの作品を、どう受け止めていいのか分からなかった。
ですが、今になって観てみると、「ぼくは小さい頃からヴィンセント・プライスにポーとかの怪奇ものが好きです!」って自己紹介してるだけの話なんですよねこれ。
ここまで極端でないにしろ、空想の中で色々な役柄を演じたり、キャラクターと遊ぶというのは誰しも心当たりがあるはず。私なんて未だにそうだし。
自身の内面をこれだけ表現してる監督って他にどれだけいるでしょうか。だからこそ、バートンに対しては妙な親近感を抱いてしまいます。
そしてその後の活躍も込みで考えると、ようやく自分なりに受け止められるようになってきました。
当時の彼に、「――これからも、どうぞよろしくね」という具合に。

追記(2023/3/24)

何と本作へオマージュを捧げた作品があることを知りました。その名も『TIM』。
ティム・バートンに憧れるティモシー・グレイ少年の物語で、かつて誰かに憧れていた少年が、今や誰かの憧れの対象になったと考えると感慨深いものがあります。

https://youtu.be/Qidv5RA54vk
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