ルサチマ

波長のルサチマのレビュー・感想・評価

波長(1967年製作の映画)
5.0
つい先日学生時代に見た『中央地帯』について思い出し、スノウの再発見を願う文章を書いた直後の訃報で動悸がした。大学2〜3年の頃、今以上にシネフィル的なものへの嫌悪が強くあって映画について専門的に勉強することにも何となく距離を取ってゼミも映画とは違うものにしていたけど、そんなときに見たスノウの映画はこちらが映画的と規定していたようなものではなく、逆にスノウの画面からこちらが規定されてしまうような「切り返し」そのものの映画として感じられて突き放された。実際この映画は通りに面した2つの窓の間にある壁の出っ張りにピンで止められた写真(スノウが撮影したものと思われる)がいくつか飾られており、その中の波を映した写真に次第に寄っていき、最後には静止した写真の波を画面いっぱいに映し出して、それがブレたように映像編集がなされて終わるのだが、この時、室内空間で写真の中の波を見ていると思い込んでいた自分の眼差しは画面いっぱいに映る波側から自分の居場所を問われるかのような感触とともに、その不確かさが揺らぎとして提示され、まさに今この映画を見ている自分自身についてスノウが見透かしているような気持ちを味わった。そのショックがなければ多分映画を真剣に見る気もなくなっていったと思うし、何より映画自体というよりも映画のあり方に凄く勇気を貰った気がしている。
何度も読んだスノウ展のカタログの中でスノウ自身が記述した「作品は素材に具体的な形が与えられ形態をなすが、それが意味するものを限定したいとは思わない。(中略)表現の主題が一方向に集中せずに"どこかよその"範囲に言及がなされるのは制御するように努めている」というテクストから感じられる自作への徹底的な向き合い方や責任の取り方は今の時代ほとんど抜け落ちてる重要な思考のように感じられて、その覚悟の強さにビビり、訃報に対して安易に涙を流すこともできずにいる。本当に無念だ。
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