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パプーシャの黒い瞳のleylaのレビュー・感想・評価

パプーシャの黒い瞳(2013年製作の映画)
4.7
ジプシーとして初めて詩集を出版した女性ブロニスワヴァ・ヴァイス、愛称パプーシャの実話を描く。

あえて「ロマ」ではなく「ジプシー」と呼びます。

広大な原野を進む馬車とジプシーたち。凍てつく大地を行く幌馬車、揺れる川の水面、白樺の森、たき火の炎、質素な暮らし…モノクロームの映像が詩的で美しい。

主な数人の役者以外は、本物のジプシーを使っていて、役者たちはロマニ語を覚えて演じているのだそう。

👇以下、ネタバレ含みます⚠️




1910年、文字の読み書きを持たないジプシーの一族に生まれたパプーシャ。
ジプシーにとって、文字は「悪魔の呪文」といわれ、文字を覚えないのが普通なのです。しかし彼女は文字に興味を持ち、読み書きを覚えて詩を書き綴ります。それが悲劇のはじまりでした。

たまたまジプシーたちに同行したポーランド人の作家がパプーシャの詩に才能を見出し、彼女の詩集とジプシーについて書いた本を出版します。彼女はジプシー詩人として注目されますが、一族からは“ジプシーの秘密をばらした裏切り者”と追い出されて孤立し、精神を病んでしまう。

「読み書きさえ覚えなければ幸せだった」
詩集を出したことを後悔し、孤独を味わうパプーシャ。

最後に「詩など書いたことはない」と否定するパプーシャからは、ジプシーとして生きていきたいという思いが伝わってきて切なかった。

彼女の波乱の人生は、ポーランドの歴史にも重なっています。

ジプシー定住化政策で移動を禁止されたり、第二次大戦でジプシーたちがナチスに殺されたり、政治が彼らを苦しめた大きな要因だった。ナチスによる虐殺がユダヤ人ほど知られていないのは、ジプシーたちが声を上げず、誰も問題視しなかったため。

ジプシーたちは世間に迫害されても、強いプライドと自信を持って生きているんだと知りました。

彼たちは定住などしたくはなく、生涯ジプシーでありたいのです。

ジプシーのリアルな姿を美しい映像で描いたポーランド映画の傑作です。でも、暗い、重い、淡々としていて、時代も前後して複雑に描かれているので好みは分かれるかも。

もう少し知りたいので、思わずパプーシャの本を買ってしまいました。

監督のインタビュー記事 
http://www.webdice.jp/dice/detail/4631/


🔖追記
本を読みました。
ジプシーが自然と共存していることを感じさせる素晴らしい詩でした。

パプーシャの詩を訳して出版したイェジ・フィツォフスキは、その詩をジプシー定住化政策のプロパガンダとして使うことを提案していた。そのためジプシー社会は彼の著書に反発し、パプーシャもまた避難されることとなりました。パプーシャはその後17年も詩を書くことはなかった。
ただ、彼がパプーシャの詩を出版した功績は大きく、ナチスによるジプシー虐殺の史実についても伝えている数少ない書でもあります。
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