MasaichiYaguchi

罪の余白のMasaichiYaguchiのレビュー・感想・評価

罪の余白(2015年製作の映画)
3.5
目に入れても痛くない愛娘が高校のベランダから転落死したことに納得出来ない大学の心理学講師の安藤聡が、娘の死の真相に迫っていくのをスリリングな心理戦と共に描く。
映画の冒頭、この安藤が学生たちに「ダブルバインド(二重拘束)」について講義するシーンがある。
「ダブルバインド」とは、二つの矛盾した命令を受け取った者が、その矛盾を指摘することが出来ず、しかも応答しなければならない状態を指す。
つまり、何をしてもしなくても叱責されてしまい、果ては反抗する気を徹底的に削がれてしまう。
本作には「ダブルバインド」の権化のような人物が登場し、周りの人々の心理を巧みに操って支配してしまう。
厄災はこの人物に端を発しているのだが、娘の死の真相の追究に躍起になっている主人公に容易く尻尾を掴ませない。
却って才気煥発で容姿端麗な相手の挑発に踊らされて暴走し、自分で自分の首を絞める羽目になる。
背水の陣の主人公が最後に打った手は、そしてその結末は?
「ダブルバインド」をモチーフにした心理戦は、腕力による肉弾戦よりも、言葉の暴力で相手のウィークポイントを確実に穿っていくので、観ている我々の心も抉られる。
そして火花散る心理戦は、衝撃的な展開で幕を閉じる。
私には、この痺れるような心理戦の勝者はいないような気がする。
ラストで「ダブルバインド」から開放されたような人物の表情が印象的だった。