映画武士道

黄金のアデーレ 名画の帰還の映画武士道のレビュー・感想・評価

5.0
この点数初めてつけます。満点です!ナチスの有名な芸術作品狩りと戦後の芸術作品の返還問題を扱った実話を元にした作品です。
この点数つけたのには作品がいいということもありますが、芸術の秋の夜長に見たという状況がプラスしたこと。
この作品で黄金のアデーレとされているクリムトの『アデーレ・ブロッホ=バウアーの肖像 I』が私が大好きな絵だということです!
※この作品に関しては私の絵画好きの点数が評価プラスされています
美術館巡り一時期ハマっていまして、クリムトはほんと大好きなんですよ!
でも恥ずかしながら『アデーレ・ブロッホ=バウアーの肖像 I』にこんなストーリーがあったのは正直全然知りませんでした。
(私は絵画を見る時はできるだけ作者の背景や作品の考察を見ないようにしてるのもありますけど。)

美術館巡りとか好きな人は確実に見た方がいい作品ですね。
作品自体もかなりいい出来です。

ストーリーとしてはあるユダヤ系アメリカ移民の姉が亡くなる所から始まる。
その遺品の中にあったある手紙がストーリーの発端になる・・・。
このあたりロマンティックですね。

その内容とはあの有名なクリムトの『アデーレ・ブロッホ=バウアーの肖像 I』が実は自分たちのものであるという衝撃の事実!
正確にはモデルになった主人公の叔母さんアデーレの遺書によって寄贈されたものというなのですが寄贈の法的根拠がない。(所有権はクリムトに料金を支払ったアデーレの夫にあるため。その夫は夫婦に子がいなかったために姪っ子の主人公姉妹を遺産相続人に指定していた)
つまり法的にはあの有名な名画(相場で100億円以上)が実は自分のものであるかもしれない?!

ところからストーリーは始まる。ワクワクです。凄い話です。すごい遺産が出てきたもんですね。

ただしそんな簡単なラッキー!遺産ゲットー!という単純な話ではなくいろいろな要素が絡んでくる。

まず主人公は現在はユダヤ系アメリカ移民でアメリカの街で小さなブティック経営で生計を立てているが元々はオーストリアのウィーンの大資産家一族の令嬢。
クリムトやいろんな芸術家のパトロンを叔父はやっていて、そのツテで描いたもらったのが黄金のアデーレ。若くして亡くなった叔母のアデーレをモデルにしている。主人公は叔母のアデーレとすごく仲が良かった。
叔母が亡くなった後は絵画のアデーレを叔母と思いながら成長した主人公。大金持ちで何不自由なく育ち結婚。幸せいっぱいだったのだが・・・
そこに現れたのがヒトラー率いるナチスドイツ!ナチスドイツのオーストリア侵攻で状況は一変。
主人公の一族はユダヤ系だったために政府から弾圧を受ける羽目に。
警察から濡れ衣を着せられ拘束され自宅軟禁状態&資産凍結。
強制収容所送り寸前の状態になり・・・
なんとか旦那と二人だけで国から脱出する。脱出するときナチスの軍人にめちゃくちゃ怪しまれたが旦那は歌手だったのでナチス党員だった名指揮者カラヤンの講演に出演すると言ったらあっさり通してもらえたのが印象的。
両親はオーストリアから脱出できずにそのまま死亡。
残された絵画は元画家で芸術大好きなヒトラー率いるナチスに押収されてしまう。(国家元帥のゲーリングも芸術大好き)
絵画がナチスに押収されたが宝石はゲーリングの奥さんのものになる。ゲーリングの奥さんは舞台女優なので宝石をつけて舞台に出てたらしい。

その後大戦終了と共にナチスドイツは崩壊するも、絵画は返還されることなくオーストリア政府のものになってる!!酷い話だ!
それもそのはず戦後のオーストリア政府の高官も元ナチスらしい?(ほんとか知らんけど作中ではそう言及されてる)

いや~この辺ナチスのユダヤ人迫害もの作品の要素入っていますね。美術史的な視点でナチスのユダヤ迫害を描いてるのは珍しいので楽しいです。

話を戻しますが戦後になっているし、黄金のアデーレは自分のものだという書類上の証拠があるので返還をオーストリア政府に求める主人公。
法的な証拠が揃っているのですんなり返してもらえるか?と思いきや政府の答えはNO!
なんとオーストリアは無法地帯でした!

オーストリア政府としては既に黄金のアデーレはオーストリアの国宝のようなものになっているので、何が何でも返したくないようです。

だからって法律とか無視して返すの嫌だ!ってヤバイだろ・・・どうなってんだこの国・・・

そこから主人公たちの国を相手にした法廷闘争ものがスタート!
若い親戚の弁護士見習い(かなり頼りないです。あわてて書類をぶちまけるとか、法廷で反論できずにどもっちゃうとか)を相棒にしてオーストリアを相手に戦って無事に名画を取り戻すことができるのか?
というのがクライマックス。

この作品はただのユダヤ迫害ものでもなく、美術ものでもなく、なんと本質は国を相手にした法廷闘争ものなんですよ!
法廷闘争ものも私大好きなんです!

本当はオーストリアで起訴しないといけないのですがオーストリアで起訴するとなぜか150万円以上の起訴手数料を取られるらしい。(弁護士費用抜きで)。どうなってんだよ!あの国!
とてもそんな手数料は支払えない主人公たちは法の抜け穴?裏ワザを使ってアメリカで起訴。アメリカは起訴費用は安いみたい。
一個人、それもどじっこの若い弁護士がアメリカでオーストリア政府を告訴。法廷闘争が始まる・・・国を相手にして勝てるわけないよ・・・という絶望感。

しかーし!どじっこ弁護士の相棒がかなり頼りない!けど奮闘し、なんとかアメリカ最高裁まで法廷闘争がもつれ込む。
ここで印象的だったのがアメリカ最高裁の舞台にたった主人公の楽しげな表情。まるでメジャーリーグのマウンドに立ったみたいな表情。
そしてアメリカの最高裁の判事はジョークを飛ばしまくる!最高裁ジョークですね!
アメリカの法廷は凄いww
そしてなんと最高裁の判決は主人公の勝利!!
やった!これでハッピー!・・・・・と思うじゃん?

その判決が出てもなんと、オーストリア政府は無視!絵画を持ち主に返しません!どうなってんだ!あの国!夜盗の集まりかよ・・・

そんな状況で主人公たちは驚くべき秘策に打って出るのです・・・

いや~この作品は本当に面白い!
芸術の秋に見るにはぴったりの美術系法廷闘争作品ですね!

最初はどじっこだった相棒の弁護士見習い君ですが最終的にはすごい成長を見せて、ラストには名演説をぶちかます。
「私たちに正義をください」の台詞はほんと鳥肌ものですよ。
弁護士君の成長ストーリーにもなってるんですよね~


そして演技面では主人公の女性を演じたヘレン・ミレンさんの演技が素晴らしい!さすが元女王陛下といった気品溢れる演技を見せてくれます。

そして演出。ラストのタイタニックのラストシーンを思わせる演出が心憎いです!感動しちゃいますよ!そりゃ~

そして芸術作品に秘められた数奇な運命に思いを馳せたくなりました。
美術館に行って絵画を見る時もいろんなことを考えたくなりますよ。ロマンです。今までどんな人の手を渡ってきたんだろうか。どんな作者だったのか。モデルはどんな人物だったのか。
(私はそういう美術史とか作品の背景はあえて無視してきましたが今後はちょっと見方を変えるかも!)

この作品を見てから美術館に行くとさらに楽しそう!

ほんといい作品です。ぜひとも秋の夜長に見てみてはどうでしょうか?
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