くじら

アメリカン・バーニングのくじらのネタバレレビュー・内容・結末

アメリカン・バーニング(2016年製作の映画)
3.3

このレビューはネタバレを含みます

 ベトナム戦争の時代を描いた作品を見たくて鑑賞。舞台はニュージャージー州の中心ニューアークとそこからくらい1時間くらいの田舎町。何年とか確かな年代は語られないけど、戦争の始まりと大統領が変わってること、途中の再現映像?からまぁ大体の時の流れは分かるかも。

あらすじ
 語り手は久しぶりに同窓会に参加した作家。同窓会でトロフィーなどを見て、当時の友人の兄でアメフトで有名だった人を思い出す。友人と再会し!友人は兄(以下回想では父と表記)が死んだと、その娘が原因だったと語り始める。
 アメフトで有名な父、ミスニュージャージーの母から生まれた娘は吃音を持っていた。娘のカウンセラーは吃音の原因を母が美人のため、自分を他人の無遠慮な質問から守り、また父の自分に注意を向けてもらうための手段だと話す。娘は当時から賢く、また他者の痛みを無視できない子どもだった。
 成長した娘は当時始まったベトナム戦争や反対し、黒人の権利のための戦いに賛同していた。当時はニューアークでも黒人の暴動が起き、よるは外出禁止令が出ていた。16歳の娘をニューヨークに行かせたところ、戦争反対の危険思想を持つ人物らとつるむようになっていた。心配した父は寄宿学校に行く代わりにニューヨークには行かないように言う。そして、抗議活動ならこの町でもできるだろうと言うと、娘は郵便局でデモを?と言う。
 ある朝、郵便局が爆破される。帰ってこない娘。爆弾をしかけたのは2人組の若い女性。FBIは彼の娘を疑い、家宅捜索をする。
 ある日父の経営する工場に娘の仲間を名乗る女性がやって来る。だが何をしても教えてくれない。そんな中、妻が正気を失う。妻の望むよう彼女は整形し新しい人生へと進む。そんな中町で偶然娘の仲間の女性と出会う。娘の居所の掃き溜めを聞き、娘に再会するも、娘はインドの宗教を信仰し、犯した罪からか全ての命を奪わないため口を隠し身体も洗わないという自罰的な生活を行なっていた。娘はあの後カウンセラーに紹介された地下組織のもと各地を転々として生き、レイプされたことに怒りを覚える父。
 妻が別の男と良い仲になっていることに失望した父は、娘の思い出の品を持って娘に会い、娘に本当に爆破したのか聞く。娘は他2件の爆破に関わり、合計4人を死なせたと言う。父はお前は娘じゃないと否定するも、娘を失いたくないと言う。娘は愛していたならもう会わない方がいいといい立ち去る。それから何年もずっと父は娘を待ち続けたまま死ぬ。
 最後語り手の作家はその葬儀に参列する。帰り始める人々の中1人棺桶に向かう娘の姿が。

感想
・分かり合えない
 どんなに近くても、血を分けて同じ時間を過ごしても人は理解し合えない。他人の言葉を誤解して言葉を交わすという最後の語り手の言葉に納得。父は確かに娘を思い愛していたし、妻も愛していた。しかし、結局彼は善人だけど娘の思想も、娘の行動も理解することは出来ないし、そんな娘を否定するけど、でも離したくないと言う。
 妻もまた彼に会ってしまったから、自分の美貌で注目されたり男に声をかけられることもなく本当は音楽教師になりたかったのにその夢を捨てさせられたと言い、整形を望む。そんな妻に対して、昔の妻を愛していたという(本人には言わないところが優しさだと思う)夫。どちらも自分の持っているイメージしか愛していない。そりゃ分かり合えないわな。

・社会問題について
 当時のカウンターカルチャーについてはまだ勉強中。娘の仲間が言っていた言葉がどれだけ娘の真意が含まれていたかは分からないが、たぶん娘は自分が恵まれた立場であること、周りの人々が傷つき殺される人々(ベトナム、黒人)を自分から切り離しその痛みに鈍感であることに気付いた時、とてもショックだったんだろうなと思う。社会で生きにくい人、弱者のために声を上げること、人権を主張することはとても重要なことだと思う。ただ今のBLMも当時の活動も、暴力が行われることは変わらない。当時はそれこそ痛みを分からせるという行動だったんだろうけど、そのために傷つく誰かがいるのはどうかと思う。この映画で娘が言っていたように、どんな時にも政治は関わっていて、政治に第三者はいないとは言っても。ただトーンポリシングだと言われるのかもしれないけどね。どう動けば良かったのかよく分からない。
 最後娘はどんな気持ちで葬儀に赴いたんだろう。
くじら

くじら