mochi

たかが世界の終わりのmochiのレビュー・感想・評価

たかが世界の終わり(2016年製作の映画)
4.2
ジャケの雰囲気と家族がテーマということを聞いたことからレンタル。家族の謎を解き明かしたいと思って色々観てるが、これは良作。20代の監督がこれを作り上げたというのは驚くべきこと。この映画を見て、やはり家族の面白いところは二つの矛盾する信念を抱くことができ、なおかつそれを弁証法により昇華することもできない、という点なのだと感じた。この映画はその特徴の辛い面をこれでもかと描いている。
皆家族の他のメンバーを愛しているが、愛してはない。皆自分のことを知って欲しいが、知って欲しくはない。皆相手を知りたいと思っているが、知りたくはない。このような状況はよくあることで、見逃されがちであるが、本映画ではルイの設定により、このような状況が表面的(「本質的」の対極という意味での「表面的」ではなく、まさに現れている、という意味です)なぎこちなさとしてまさに現れるようにしている。つまり舞台設定が我々の持ってはいるが気付きづらい感覚を増幅するように構成されており、非常によく練られている。しかも、各俳優の演技が上手い。
母の愛も兄の絆も、妹の憧憬も兄嫁の配慮も単線的ではなく重層的である。しかもその重層性は各場面で重層的というよりも、さまざまな単線的なものが、異なる場面で織り成されている。マトリョーシカ的ではなく、むしろ毛織物のようである。そしてこの表現は時間芸術でしかできない。絵画や写真はあくまでワンシーンだからである。
ルイは確かに家族のとまっていた時間を動かすことに成功した。しかしながら、彼は本物の鳥であって、時計の中の偽物の鳥ではない。彼は偽の鳥になっていないことを自覚し、偽の鳥になろうとしたができなかった。彼は家族を外から動かしたが、同時に家族の外にいることが決定づけられたのだと思う。
mochi

mochi