ナガエ

ボクは坊さん。のナガエのレビュー・感想・評価

ボクは坊さん。(2015年製作の映画)
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幼稚園の頃、お寺に泊まる、みたいなイベントがあったと思う。幼稚園のすぐ裏手の斜面沿いの墓地があり、その上に寺がある。幼稚園の時、その墓地で肝試しをしたような記憶がある。
父方も母方も、共に祖父が亡くなった。父方の祖父の墓は、そのお寺にある。寺の名前は覚えていない。自分の家がそこの檀家なのかどうかも、自分の家が何宗なのかも知らない。葬式と、何回忌ってのと、あと墓参りに、たまに行った。
お寺と関わるのは、それぐらいしか記憶がない。

『お寺の仕事は、葬式だけではないんですよ』

主人公のお坊さんは、幼なじみにそう言うが、確かにそれ以外の印象はあまりない。
数ヶ月前、僕は青春18きっぷを使って主に西日本をうろうろする旅をした。その際、高野山に寄るプランも考えてはいた。一度行ってみたいような気はしていた。ただ、ルートを検討して、高野山は諦めた。その代わり、というのは違うが、伊勢神宮と出雲大社には行った。どちらもたぶん神社で、でも僕は、神社とお寺の違いもよく分からない。
これまで、寺の息子、という人間に何度か会ったことがある。高校時代の同級生、大学時代の後輩、バイト先の後輩。家を継いだ者も、どうしたのか分からない者もいる。また、高校の同級生で、寺に嫁いだ、という女性もいた。それがかなり大きなお寺で、僕も行ったことがあるところだったので驚いた。彼らは、日常の中に「お寺」というものが存在する生活をしている。それがどういうものなのか、興味はあるけど、なかなか知る機会はない。
かつて、「スリーピングブッダ」という小説を読んだことがある。お坊さんになるための修行を行う若者たちの物語で、実際どんな修行が行われるのかをリアルに描いている。また、「食う寝る坐る永平寺修行記」という本を読んだこともある。これは、坊さんになる修行を実際に行った人間が書いたノンフィクションだ。こちらも、リアルで面白かった。
そんな形で、少しずつ、寺というものと関わることはある。しかしそれは、ほんの瞬間すれ違うみたいな関わり方でしかなくて、ほとんど知らない。もっとお寺が身近にあるような生活をしている人もいるだろうけど、僕はそうではなかった。知らない世界のことを知ることには興味があって、そういう意味でお寺にも関心がある。

映画の舞台は、四国にある永福寺というお寺だ。お遍路で回る八十八のお寺の内、57番目のお寺である。主人公は、その永福寺に生まれた、現住職の孫である。高野山大学に学び、阿闍梨という位を得たが、今は地元の本屋で働いている。
現住職は、地元の多くの人に慕われているのだが、ある日倒れ、すい臓がんを言い渡される。それを機に、坊さんになるかどうか迷っていた主人公は、坊さん用に名前を変え、祖父の跡を継ぐが、坊さんの世界は知らないことの連続だ…。
というような話です。

映画として見た時に、ちょっと全体的に弱いな、と感じました。あまり知られていないお坊さんの日常を描く、というのは分かるんだけど、ちょっと内容にまとまりがないような気がしました。メインのストーリーとなるのは、幼なじみが関係する部分と、檀家の長老が関係する部分でしょうか。幼なじみのパートは、突発的な出来事により関係性が変わってしまう様を、そして檀家の長老のパートは、若くして住職になった主人公と、先代を慕う檀家たちの行き違いを描いている、という感じでしょうか。幼なじみパートは、ちょっとありがちなストーリー過ぎてちょっとなんとも言えなかったし、檀家の長老パートは、もう少し対立構造がはっきりするストーリーじゃないと入り込めないかなぁ、と思いました。
高野山大学時代の友人パートの話もあるんだけど、これは正直、なくてもストーリー全体には影響しないというか、なんでストーリーに組み込まれているのかイマイチよくわからない感じがしました。
そしてそれらの合間に、お坊さんの謎めいた日常的な話が組み込まれるんだけど、どうも中途半端な感じがしてしまいました。どうせなら、これらの「お坊さんあるある」をうまく発端にして全体のストーリーを組み上げられれば面白かったような気がするんだけど、これらの「お坊さんあるある」は、映画中で本当に挿入エピソード的な扱いなので、なるほどなぁと思いはするけど、映画の全体のストーリーの中で印象的な要素になれているわけではありません。
メインはやはり、幼なじみパートなんだけど、この幼なじみパートのせいで、「お坊さんという異世界に飛び込んだ主人公の葛藤」みたいなものが上書きされてしまっているような気がするのがもったいない気がしました。この映画は、僕の勝手なイメージでは、「突然お坊さんになってあたふたしている若い住職の奮闘」を描く部分に主眼があるような気がしたんだけど、幼なじみパートのエピソードがそれを全部かっさらって行ってしまっている気がします。お坊さんになったことへの葛藤よりも、ずっと仲良くしていた幼なじみへの心情が勝ってしまって、お坊さんになったことへの葛藤をうまく描ききれていないような印象を受けました。それでも、幼なじみパートが面白かったら別に問題はないんだけど、うーん、そうでもないと思うんだよなぁ。

なんとなく全体的に、もう少しやりようがあったような気がするので、ちょっともったいない気がしました。
ナガエ

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