ひでやん

神のゆらぎのひでやんのレビュー・感想・評価

神のゆらぎ(2014年製作の映画)
3.5
道徳と戒律の狭間で。

宗教上の戒律に苦しむ女性看護師と白血病の婚約者、ドラッグの運び屋、不倫関係にある老齢カップル、アル中の妻とギャンブル狂いの夫という男女7人の運命を、現在と過去を往来しながら描く群像劇。サスペンスタッチの雰囲気は嫌いじゃなかったが、美的センス溢れるドラン演出を感じられなかったのが寂しい…監督ドランだと思ったら違ってた。

エホバの証人の信者であるがゆえに輸血が許されない看護師。目の前に救える命があるのに祈るだけなら、そりゃあ信仰心もゆらぎ始めるだろう。戒律の縛りから解放されれば心が軽くなるだろうな。飛行機が墜落しても、戦争、震災、ウイルス…何が起きても神の御言葉に従えばいいのか…?「全能の神が存在しないからだ」という言葉は直球過ぎて残酷だった。

複数の物語を巧みに交錯させながら、それぞれが墜落する運命にある飛行機へと向かう。その群像劇の中でエスカレーターのすれ違いが印象的。誰かの選択が誰かの運命を変えるというのは良かった。それぞれの「ゆらぎ」や、看護師の決断は正解か間違いかの問いかけも良かったんだけど、群像劇がいまいちだった。

同じ飛行機に乗る運命なら、そこに対比構造があったら良かった。例えば、ものすごい善人と、とんでもない悪人、そして純真無垢な子供が同じ飛行機に乗って墜落。善人だけが助かるわけでもなく、悪人だけに罰を与えるわけでもなく、全員死んじゃって神の存在を問う方が良かった。

サスペンスを描くなら、善人だと思っていた唯一の生存者が実は悪人で、そいつだけ助かる後味の悪さ。或いは、エスカレーターのシーンで飛行機に乗るのをやめた悪人に代わって、善人が乗る事になり、善と悪がすれ違う。そんな後味の悪さを描いてほしかった。
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