レオピン

明日へのレオピンのレビュー・感想・評価

明日へ(2014年製作の映画)
3.8
2014年韓国公開 原題は「カート」

2007年に起きた量販店「ホームエバー」の非正規労働者の大量解雇に端を発する労働争議(イーランド社争議)の映画化。

序盤に出てくるモンスタークレーマー。あれチンサン(真相)顧客っていうらしい。レジをとおさずに勝手に商品をあけたり元に戻したりと非常識な行動をとる客のこと。デパートの外商客みたいなもんか。
女子更衣室にまで社員がズカズカ入ってきて直接謝らせたりする。しかも土下座要求。
ここら辺でウっとくるが、一度でも減点評価全開のお客は神だという姿勢の職場で働いたことのある人間には決して無視の出来ないシーン。

スーパーを突然クビになった主婦たちが起こす労働争議。割りと最後までガチ展開。
ろうそくデモ以来の運動圏から出てきた映画か。 
過熱したストライキに従業員は店に立てこもってろう城戦の構えをみせる。普通のパート主婦たちの『1987、ある闘いの真実』がここにあった。

大体お客も大事だが、それよりも働く人間の尊厳が軽視されすぎている現実よ。ESなくしてCSなしってよく言うが、ホームエバーではマニキュアや口紅の色まで指定されていたという。
新自由主義ってのは経済のタームを他の領域に持ってくる傾向がある。無自覚に。ただ普通に働きたいだけなのにという主婦たちの悲痛な叫び、それはみな当たり前の声なんだ。

分断作戦を打ってくる会社はストの切り崩しを行う。やり方は稚拙ながら昔からあるもの。
弱い環、いわば働けさえすればなんだっていいという層を狙い撃ちにしてくる。だけど、あの佐々木すみ江に似たスルレさんは分かっている。
「団結は生 分断は死よ」
そう、連帯こそが彼女らの生命線だ。

連帯を阻むものは会社だけではない。社会の運動に対する冷ややかな態度視線。どこにでも安全地帯から石を投げる揚げ足とりの冷笑おじさんみたいなのがいる。映画でもヘラヘラ笑の会社側の人間が出てきた。

だがここでは冷笑だけで済まない。本物の暴力にさらされる。黒ジャンパーと帽子にマスクで素顔は描かれない者たち。匿名の陰に隠れた卑劣な奴らが女子供を容赦なく襲う。 
韓国の怖いところはスト破りにすぐに実力部隊を動員してくるところ。あれ何なの?多分民間人でしょう。『1987』でも白骨団みたいな集団が出てきた。徴兵がある国だと必ずああいった自警団みたいなのがウヨウヨ沸いてくる。

主人公のソニにヨム・ジョンア
レジ係のヘミにムン・ジョンヒ(文晶煕)
清掃員スルレはキム・ヨンエ
カン代理にキム・ガンウ(金剛于)

レジ係オクスンにファン・ジョンミン『地球を守れ!』。レジ係ミジンにチョン・ウヒ『哭声/コクソン』。二人とも初めはメチャ仲が悪かった。

息子テヨンにト・ギョンス。同級生にチウ。
コンビニ店長にキム・ヒウォン。『アジョシ』のアイツ、マンソク兄弟!あのムカツク感じは健在でした。最高!

実際の運動は512日も続いたという。結果は執行部の退職と引きかえにほとんど全員が復職できた。運動を主導した連中は報われない。だが成果は勝ち取った。

ほとんどの人がサービスを受ける側であると同時にサービスを提供する側でもある。何かしらどこかで悔しいことを日々飲み込みながら生きている。でも、時に我慢できないことがある。石をぶつけてやりたい人間がいる。
そんな時に役にたつのが韓国映画。

雇用の二極化では先を走っている感の韓国社会。映画では制服を脱いだ者も着ていた者も、正規も非正規も関係なく両者が手を取り合って立ち向かっていく姿が見れた。一日でもあの抗議の空間を共有したものだからこその連帯。仲間を見捨てておけないというコンテキストに胸がアツくなる。

ただ悔しかったから 息子のテヨンは言う その息子に
母さん しばらく戻ってこないからねと言い残して出ていく母

息子は大丈夫か? 彼はしっかり者だ、心配いらない。妹は? うん 海苔さえあれば(1週間くらい)なんとかなる。
人間には誰かを見捨てておけない。立ち上がらないといけない時があるもんだ。

全ての労働者に幸あれ

⇒多勢に無勢な突撃に感涙な映画ベスト級
『明日に向って撃て!』(‘69)『野性の証明』(‘78)、etc.
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