NM

ルームのNMのレビュー・感想・評価

ルーム(2015年製作の映画)
4.0
観て良かった。
ただ、親子が抱き合っているだけのジャケットは普通っぽく感じられて正直もったいない気もする。
ただの監禁ものでも脱出ものでもない。親と子、人間の心、世界、様々なものを扱い、考えさせられ、感動もある。

5歳のかわいい男の子ジャック、そして優しいママ。
だが何かが妙。
この「ルーム」には天窓以外窓がなく、ワンルームでとても狭く、まるで独房。ドアは強固なセキュリティで開閉できない。
ジャックはかなりのロングヘア。今日は誕生日だが客はなく、外出もしない。誕生日ケーキは質素で飾りはアイシングだけ。ジャックはロウソクが欲しいと訴えるが、「それはアイツには頼めない」と言う。
恐らく散髪も虫歯治療もできない状況。

どうやら週に一度やって来る「アイツ」が日用品を持ってきて、それのみで親子の生活は成り立っているらしい……。

なぜこんなことになったのかを隠してきた強くて優しいママ。
ジャックはこの生活が当たり前だと思っていた。だから突然外の世界のことを教えられても混乱し、知りたくも信じたくもない。アイツ、オールド・ニックさえ避けていれば幸せであり、これが永遠に続くものと思っていた。

ママが説明し、ジャックがなかなか理解できない様子も興味深い。世界の存在を知らなかった子にそれを言葉で説明するのは困難だ。
ここは重要なテーマの一つと言って良いと思う。世界とは何なのか。私なら説明できる自信がない。

ママの気持ちも想像を絶する。17歳の時から恐怖と屈辱に耐えつつ、しかし息子はなるべく怖がらせず少しでも幸せな気持ちでいさせたい。

そして、アイツの支援も頼れなくなってくる。このままでは二人ともいつか死ぬ。やはり何とかして脱出を試みなくては。仮に自分がどうなろうと、せめてこの子だけでも「世界」に出してやらなくては。

非常に手に汗握る展開。この罪なき親子が何とか助かってほしいと願う。

作品は後半が本番。
ジャックが「世界」に馴染むのも大変だが、二人への接し方を誤る人々が現れる。
事件が事件だし、誰もが正しく接せられるわけではない。
家族はもちろん、弁護士、マスコミ、野次馬、多くの人が、悪気のあるなしに関わらず、二人の静かな生活を阻む。

リオの対応はとても素晴らしかった。普通はこんなに上手くできない。いつも冷静で、やたらと話しかけるでもなく、ただただ待つわけでもない、そっと、ジャックの心を開いていく。何者だろう。原作小説には細かい設定が書いてあるのかもしれない。

そして何よりママ、ジョイも被害者。脱出は良いことだが、環境の変化というのは良い方向であっても多大なストレスがかかる、普通の引っ越しであっても相当疲れるもの。
次々と取り巻きが殺到し、家族との関係も単純なものでなく、ジャックを馴染ませるのも大変。

優しいようで酷いことを聞いてくるマスコミの女性が胸が悪くなった。外部ストレスの象徴のようなシーン。
ついにジョイのストレスは限界を越えてしまう。
あの苦しみに耐えてきたのに、外にはそれ以上の暴力があふれていた。我々はそんなところで生き、傷つけ合っていることに気付かされる。結果としてジョイはまた別の形で隔離されることに。

シェイマスの登場には感動した。視界に現れるだけであれだけの癒しとは、動物はすごい。

私は正直、段々「普通」っぽくなっていくジャックを見て安心し微笑ましく思った。
だが、これは必ずしも正しい考えではないだろう。ジョイと同じ。相手(子ども)に、自分が思う「普通」像を押し付ける。
普通じゃなくていい。大人も子どもも。ジョイもきっと自分自身に理想の母親像を当てはめようとして、自らを苦しめてしまった。

辛いばかりの映画ではない。ジャックも勇敢だったし、ジョイも賢く強かったし、あの犬の散歩をしていた男性もよく気付いてくれたし、女性警官も正義感に溢れていた。

機会があればまた観て、特に後半の部分についてよく考えたい。その価値がある。
NM

NM