Stroszek

パターソンのStroszekのネタバレレビュー・内容・結末

パターソン(2016年製作の映画)
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このレビューはネタバレを含みます

ニュージャージー州パターソンのバス・ドライバー(演じるのはアダム・ドライバー)、パターソンの一週間を描く。

ものすごい静謐だがときどきものすごい不穏(スポーツカーに乗った若者達と妻の浮気を疑わせるシークエンスや通販狂い疑惑が浮上するとき、妻がパターソンがソファに忘れたせいで犬がノートブックを食い散らかしたと暗に咎めるときなど)。ゆっくり進む日常に合わせ、観ては止め、観ては止めて、観終わるのに2ヶ月くらいかかった。

妻が外出するのが土曜に自作のカップケーキを売るときだけで、「もしかして妻は実在しておらず、パターソンの目にしか映っていないのでは?」と途中まで思っていた。子どもがいないのに専業主婦というのはアメリカでは珍しい存在ではないか。

犬に詩を書き留めてたノートブックを食い散らかされ、失意のパターソン。滝の前のベンチで呆然とする彼の前に登場し、パターソン出身の詩人ウィリアム・カーロス・ウィリアムズや詩についての会話を交わし、最後に唐突に白紙の本を渡して去る永瀬正敏が「マジック・ジャパニーズ」すぎる。

"Excuse me again, but are you also from Paterson, New Jersey?"("Paterson"とNew Jersey"はほとんど一語で発音)

から始まり、

"Excuse me. A-ha!"

で終わる会話。永瀬が差し出した白紙のノートブックを"That's very kind of you"と受け取ったときのパターソンの眼差しで、「彼もまた詩人である」と気づいたのではないか。詩人は詩人を知る。

彼の"Poetry in translations is like taking a shower with a raincoat on."はいい台詞だった。

ウィリアム・カーロス・ウィリアムズには愛着があるが、同じパターソン出身のアレン・ギンズバーグにはない。彼の方がおそらく派手に名声を博したのに。その彼を見て永瀬正敏は"Aha!"と言う。そしてある詩人が"New York school"(NY派の詩人だ)という言葉にはただ"A-ha!"と言い、それ以上反応しない永瀬。ここらへんはアメリカの詩人に関する文脈が潜んでる対話だ。

永瀬正敏が片手の薬指と小指を怪我していた理由もよく分からないが、何か詩に関するディティールが潜んでいる気がする。

パターソンの地下の書斎には、David Forster Wallaceの"Infinite Jest"のような実験小説や詩集など、明らかに知的水準が高い人向けの著作が並んでいる。しかし別に高学歴の人がキャリアダウンし高卒向けの職に就いているという演出はなく、彼の職業と生活と詩作は自然と調和している感じがある。バス運転手が詩が好きで、妻以外の誰に見せるでもなく、承認欲求のためではなく、ただ「詩が好きだから」詩を書いている描写がいい。マネタイズする欲望に溢れた創作物にはないストイックさが清新。彼の詩は韻もろくに踏まないが、書きたいように書いている。

映画館で観たら寝ていたかもしれないが、自宅でチビチビと観るには最適な映画だった。
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