りっく

オールド・ジョイのりっくのレビュー・感想・評価

オールド・ジョイ(2006年製作の映画)
4.0
本作は旧友が一泊二日で山奥の秘湯でひとっ風呂浴びて帰ってくるシンプルなロードムービーである。だが、冒頭で主人公がもうすぐ父親になる状況で、身重な妻に一応エクスキューズを取ってから旧友と旅行に出かける場面をきちんと描くことで、男同士の関係性に深みが増してくる。

妻を残して自分だけ楽しんでいる状況への若干の罪悪感や申し訳なさ。そんな彼を見て父親になることへの祝福と同時に、もはや昔のようには接することができない壁を感じる旧友。道中での遊戯的な場面やたわいもない地元トークでのふたりの温度差が、人生における優先順位が変化し、その結果ふたりが腐れ縁の付き合いのように見えてくるのが切ない。

そしていざ秘湯へとたどり着く終盤。薬指に光る指輪をはめた左手を湯船に沈め、旧友はそんな主人公に近づき、肩を揉む。説明的な心情台詞など皆無ではあるが、やはりさりげないカットの積み重ねと構図の確かさによって人間の心の機微や距離感をじんわりと描き出してみせる。
りっく

りっく