あなぐらむ

汗ばむ美乳妻 夫に背いた昼下がりのあなぐらむのレビュー・感想・評価

3.5
「昼の光に、夜の闇の深さがわかるものか」ゲーテの言葉が冒頭にテロップで映し出される。これだけで映画の格というか、作者の懐が分かる。
男の「汗」フェチを隠して潔癖性の夫と結婚した七海なな扮する人妻が、不貞の果てに己が欲望を解放させていく様を、夏の暑さのと共に丹念に描き出す、まるでロマンポルノの様な批評性まで感じさせる作品。生身の肉体の交わりを、てかる汗が映し出す。
城定監督は秘密のある夫婦を第三者の視点から描いた前作「悦楽交差点」を逆転させ、秘密の当事者の抑圧された内面に切り込んで、最後には夫婦両方に救いまでもたらす。夫の首筋の汗を舐める七海ななの、最高の笑顔を見せるラストショットが素晴らしい。
無論、汗は比喩に過ぎず、抑圧された女性性、および「女性の性」であり、それを当事者が能動的になる事で解放させていく様は、小沼勝の映画の様だ。身体を舐める、というエロ映画では当然の行為に意味を見出す手管。ですます調の会話のリズムも良い。
あの水道屋青年の「(汗さえも)僕が一番じゃないんですよね」という、もうギリギリこんなとこ、という嫉妬の切なさ。
そして彼は青山真希扮するがSMの女王様と田舎に戻り、ひょっとしたら「わるいおんな」のようなド田舎ピンク映画の主役として帰ってくるのかもしれない。
主人公の七海ななと夫のかける眼鏡(寝るまでの段取で意図的に合わせて外すシーン有。これが最後と対になる)、わざと濃く塗った口紅(汗を舐める事で薄れていく)という細かい部分部分にまで「意図」があるのが素晴らしい。
こういう細部が映画を作る。
女優が走る映画は美しい。七海なな作品としては「人妻セカンドバージン」にトドメをさすが、本作も好編。