あなぐらむ

タフ PART 1 誕生編のあなぐらむのレビュー・感想・評価

タフ PART 1 誕生編(1990年製作の映画)
4.5
元々ビデオリリース時にシリーズ+劇場は鑑賞していたが、いつだったか日専でやってたので思わず見入ってしまった。
殺しという裏の世界での青年のビルドゥングスロマン、という極めて珍しい題材に挑んだのが本作である。

若き木村一八の佇まい、大久保鷹のエグみ、渡辺哲(若い!)のキレ。
安岡力也&三原順子(今は国会議員さんですが)の猛烈な「その筋の人」感。名悪役・白幡の矢島健一がやはり全部さらっていく感はあるが、その画作り、緊迫感に思わず見てるこっちに居ずまいを糾させる質がある。堀勉、寺島進とみんな面構えがゴツゴツで良い。

撮影は長谷川元吉。吉田喜重と組んだ後、原田組を何本か担当している。陰影が強い、パースペクティブの利いた画は東映Vシネマの薄っぺらい(これはこれで良い)画とは異質なもので、光の使い方も素晴らしい。
末期ロマンポルノ女優、小川美那子が二郎の初めての殺人の相手なのも印象的。30年前、こんな「映画」があったのだ。

原田演出はとにかく画面に不穏さを漂わせ、わざと字幕だけで会話処理をして時間経過を描いたり、色々と冒険をしていてそれが全部成功に回ってるのが凄い。終盤の力也さんの単身殴り込みシーン、「(拳銃を)寄こせ…寄こせ…左手で寄こせ」とにじり寄って行くシーンの息を呑む緊張感。ここだけで見る価値あり。

ビデオシネマだが銃器的には特別な銃って全然使っておらず、根路銘(大久保鷹)の愛銃はコルト・パイソンだし、殺しのゲームはお馴染みのMGCモデルガン系列だったりなのだが、でも二郎の最初の殺しの前の段ではリボルバーにでっかいサイレンサーつけてたり(シリンダーを全て包まないと音が洩れてしまう為)、さり気なく、ちょっとしたエッジを立たせていく手筈だけで、かくも銃撃戦は見せられるのかと思ったものだ。

ちらと読んだ話では、ビデオシネマは劇場でかからない限り「映画」ではないため、NFAJ(日本映画アーカイブ)では保存対象にならず、結果として「タフ」シリーズなどは保存されたりしてないらしい(現在はどうか知らない。VHSのみ原版の作品保存問題も出ていたから、今は掘り起こしてるのか?)。逆に池田敏春「ミスティ」や榎戸耕史「ゼロ・ウーマン」とかは単館とはいえかかってるから、保存対象だとしたら、変な線引きである。
ともあれ、「タフ」はもっともっと邦画を語るキーワードとして見直してもらいたい。なお、「復讐篇」のみ原田組助監督出身の門奈克雄のディレクションなので注意。