りっく

ダゲール街の人々のりっくのレビュー・感想・評価

ダゲール街の人々(1976年製作の映画)
4.0
パリのダゲール街で商いをしている人々のステレオタイプな日常と彼らの肖像を描いたドキュメンタリーであるが、まずは劇映画同様にアニエス・ヴァルダという映画作家の構成・編集の巧さに感服する。

決して華やかでない人々への冷ややかな目線と、それと同じくらい冷めた表情でカメラを見つめ返す人々。店内から微動だにせず見つめるさまは、まるでウェス・アンダーソン映画の登場人物を見ているような気になる。彼らが見つめる視線には、何かを渇望している虚無感が漂う。

アニエス・ヴァルダも、例えば店の人々と客とのやり取りは映すものの、きっと一日の大半は暇で退屈な時間を占めているであろう店内の、何もない時間をきちんと映している。だが、それを一歩引いた視点で見つめる距離感を保つ一方で、店を構えるに至った人生や、職人としての技のようなものを、主に手のクロースアップを連ねることで敬意を表している。そのバランス感覚も見事だ。

随所に挟み込まれる夫婦の馴れ初めや、夢についてのインタビュー、さらには街にやってきたよそ者であるマジシャンのショーで盛り上がる彼らの言葉や表情で、徐々に人間味を引き出しつつ、催眠をかけられて眠りにつき、その術を解くことによって目が醒める過程と、ダゲール街を影で支えている人間たちが「冷める/醒める」様を見事に繋ぎ合わせるユーモアたっぷりの編集がとても面白い。
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