いろどり

ヨーヨー・マと旅するシルクロードのいろどりのレビュー・感想・評価

4.1
現代最高のチェリストの一人であるヨーヨー・マが98年に立ち上げた「シルクロード・プロジェクト」。伝統的な東西の音楽と、現代音楽を融合させたアーティスト集団。今作は、ヨーヨー・マとシルクロードのアーティストたちの話であり、タイトルはミスリード。ヨーヨー・マのドキュメンタリーというわけではない。

ヨーヨー・マといえば無伴奏チェロ組曲を思い出すけど、クラシック界の彼がこんな胸アツなことをしていたとは!パリ生まれニューヨーク育ちの中国人で西洋楽器を奏でるヨーヨー・マだからこそ、文化的、歴史的、政治的背景を背負ったアーティストたちと共鳴しやすく、求心力もあったのだろう。親交を深めたというジョン・ウィリアムズは序盤にちょこっとだけ出てくる。各所に世界中の音楽仲間との熱いセッションがあり見ていて楽しくなる。しかし今作は楽しさだけではなく、このプロジェクトが抱える芸術家たちのテーマを深く追求していてなかなか見ごたえがあった。

伝統音楽のアイデンティティを大切にしたいのに、イランイラク戦争や文化大革命、シリア革命など政治的混乱に巻き込まれたメンバーたちの中には祖国で演奏できない人もいた。「芸術の役割とは?」「この不安定な世界で価値はあるのか?」という思いがプロジェクト全体の壮大なテーマにもなっていて、それぞれ自分たちのルーツを大切にしながら国境を超えたハーモニーを奏でる姿に感動した。乾いた砂に馬や牛、草原や大地の香り、ひいては物事の源を思い出させてくれる民族音楽の音色が重なることで、新たなものが生まれる素晴らしさ!政治が絡まなければ不協和音には決してならない。

中国琵琶(ピパと呼ぶらしい)、ケマンチェ、バグパイク、アゼルバイジャンの伝統歌唱など、エキゾチックな音楽が新鮮。音楽は人々をつなぐ架け橋であることを実感できる熱いドキュメンタリーだった。
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