いろどり

冬の旅のいろどりのレビュー・感想・評価

冬の旅(1985年製作の映画)
4.2
旅人、放浪者、ヒッピー、ホームレスの定義はわからないけど、そこに自由はある。それが追い求めた自由かどうかは別として。お風呂に入らず悪臭漂う彼女は社会生活を放棄したホームレスが一番近いように思える。居場所も仕事も与えてもらえるチャンスはあったのに、根無し草を選んでしまうところに確固たる信念は見えない。

バーバラ・ローデン「WANDA」やケリー・ライカート作品に出てきそうな崖っぷちをさまよう孤独な人間で、心がヒリヒリした。これがトニー・ガトリフ作品なら、歌って踊っているのに。。
ジョン・レノン風の哲学放牧家は、怠け者で逃避しているだけと言っていたけど、自分の人生の理想像が確立していないと、刹那的衝動にのまれてしまうことは若いときは特にあると思う。

生い立ちに原因があるかもしれないがそこはわからない。もしかしたら立派すぎる経歴の両親がいるのかもしれない。虐待を受けていたのかもしれない。どちらにしても、十分な愛情を受けて育ったとは思えない。私もその類いで、よく変わっていると言われるし、縛られるのは嫌いだけど、社会規範の中で生きることを絶対手放さない。孤独に耐えられる自信なんてないから。モナには孤独を受け入れる覚悟があった。だからこの作品には湿っぽさがないんだ。

こんな女性を目撃してしまったら悲しい。関わってしまったらきっと忘れられない。実体験からのインスピレーションとのこと、ヴァルダもそうだったのかもしれない。そして、私の中にも少なからずモナはいる。いや多分、人より多い気がして震えている。
アニエス・ヴァルダのドキュメンタリー作家としての部分が光る作品だった。
U-NEXTではなぜかこれがヴァルダの遺作と書いてあった。でもこれは1985年の作品で遺作ではないはず。
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