maverick

愛を歌う花のmaverickのレビュー・感想・評価

愛を歌う花(2016年製作の映画)
4.2
2016年の韓国映画。『ビューティー・インサイド』のハン・ヒョジュと、『ハン・ゴンジュ 17歳の涙』のチョン・ウヒの共演作。日本統治下の朝鮮を舞台に、妓生学校出身の二人が辿る激動の人生を描く物語。


この時代の妓生は、日本の芸子のようなイメージ。伝統的な歌と踊りを披露する華やかな存在ではあるが、宴の席では男性に尽くす身分。主人公のソユルはトップクラスの美貌と歌唱力とで他とは違う扱いではあるが、そんな彼女でさえお得意様への接待相手として差し出される。男尊女卑が強い時代であり、不遇な扱いを受ける女性たちに胸が締め付けられる。

そんな環境にあってもソユルは歌うことの喜びを糧とし、時代を象徴するような歌い手になりたいという夢を持つ。共に妓生学校を過ごした親友のヨニも少なからずそんな想いを抱いていた。きらきらと輝く二人の純粋さと友情とが本作の良心。華やかな映像と、差し込まれる美しい歌とがそれを際立たせる。希望の未来を夢見て力強く生きる二人を応援したくなる話だ。

そんな美しい話で終わらないのが本作の醍醐味。二人の友情に亀裂を入れる存在として、ユヌという男性が現れる。ソユルは彼と相思相愛の関係に。だが作曲家であるユヌは、ソユルの親友のヨニに歌手の才能を見い出す。ここからの展開が怒涛の如く激しく、何ともエグい話で見悶える。激動の時代に翻弄され、その渦中で激しく感情をぶつけ合う二人。美しかった二人の友情はどこへやら。だがこれこそが人間が持つ生々しいまでの感情と、そう思わせる点が見事である。

嫉妬し、激しく嫌悪し、けれどもその根底にあるのは愛情である。憎いけれども、でもどうしても憎みきれない。そんな感情が痛いほどに理解出来てしまう。ドロドロの愛憎劇なのに、その中に人が持つ良心の美しさを感じてしまう。そう、本作は結局は美しい物語なのだ。人生の中で移りゆく感情の流れを本作に見ることが出来る。大切な相手との関係が壊れ、二度と関わりたくないくらいに嫌っても、でも時が経って思い出すと愛おしいと思える存在。誰しもそんな相手がいるはずだ。その人の顔がふとよぎるような、そんな話であると思う。

ハン・ヒョジュ、チョン・ウヒ、共に素晴らしい熱演である。可憐な美しさと、美麗な歌声のどちらも素晴らしい。揺れ動く感情を見事に表現したハン・ヒョジュ。スターに駆け上がる様を納得のオーラで表したチョン・ウヒ。二人の存在感は圧巻であった。二人がデュエットするシーンがたまらなく好き。後で思い返すと泣けてきてしまう。チョン・ウヒは本作で作詞まで担当する熱の入れよう。二人とも歌は相当練習したらしい。作曲家役のユ・ヨンソクもピアノを猛特訓したそうだ。彼の演技も見事だった。チャン・ヨンナム、パク・ソンウンのオーラもさすが。役者の高い演技力を堪能出来るのも、本作の楽しみだ。

日本統治下の話なので日本の軍人が多数登場するが、その描写はちょっと安っぽくてそこが残念。典型的な描き方だし、イントネーションも変てこだし、日本人からすると違和感がある。まぁハリウッドもこの点に関しては大して変わらないし、そこはもう仕方ない。


人間そんなに綺麗じゃない。愛憎入り乱れた人間臭さが表現されていて、自分はこの作品好きだな。伝統曲と流行歌のどちらも心地よく、映像の美しさもあって華やかな印象も残る。ラストも綺麗だった。戦争の虚しさを感じさせる作品でもあり、ハン・ヒョジュと、チョン・ウヒの二人の美しさがそれを一層際立たせる。時代が違えば、二人の運命もまた違った結末を迎えていたかもしれないな。
maverick

maverick