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軍旗はためく下にのgenarowlandsのレビュー・感想・評価

軍旗はためく下に(1972年製作の映画)
4.3
直木賞受賞した同名短編集の中の『敵前党与逃亡』『上官殺害』をもとに、深作欣二監督、新藤兼人脚本の見ごたえある重厚な反戦映画でした。
知らなかったのですが、軍隊から逃亡すると当時の陸軍刑法で死刑になったんですね。こんな法律があったなんて酷すぎます。敵前逃亡の罪で死刑になった夫(丹波哲郎)の真実を知りたくて妻(左幸子)は戦後26年間、厚生省に問いかけ続けます。生き残った元兵士で事情を知るだろう人びとの連絡先をようやく教えられ、真実を探そうとしますが…

まるで映画「羅生門」あるいは小説『藪の中』のようで、終戦前後の事件は語る人によって全く違う出来事になり、真実に近づいたかと思うとまた遠ざかります。妻がたどり着いた真実とは…
戦争の不条理を描いたドラマとして大傑作です。

まず、原作の短編を貫くテーマは「敵前逃亡」。敵前逃亡によって処刑された人びとの実話を集めたものです。

死ぬまで戦え、逃げたら死刑。
どうせ死ぬなら敵を殺さなければ、でも立ち上がる力も残されていない。
餓死していく兵士たち。
日本人として生まれたこと自体が死ぬために生まれたようなものです。

語れない真実。狂っていく兵士たち。それぞれが保身に走ったわけではなく、狂気の中でも人間性を保とうと生きた兵士たちもいました。

でも逆らえない上官の命令。
上官の命令は、国の法であり、それは「現人神による秩序」。

国が始めた戦争で被害を被ったのは国民。戦争で亡くなった人を差別することはできない。本作品のオープニングは夫が陸軍刑法で死刑にあったから戦死ではないので恩給はもらえないことから始まっています。

混沌(戦時下/庶民や兵士)と秩序(現代社会/軍国主義)が対比されていました。

混沌が秩序に飲まれ、生きていく場がなくなった、と言葉を変えては語る元兵士たち。元兵士たちは戦後も報われず無力感に苛まれていました。

A級戦犯がのちに総理大臣になり、日本の新たな「秩序」を作っていく過程で制作された本作品。

原作のもつ力と脚本、演出の力で、ただ犯人捜しをするのではなく、兵士一人一人の苦悩を描き、厚いヒューマンドラマとなっています。役者の演技も素晴らしく、奥行きのある反戦映画でした。

加えて、戦争の不条理と戦後も変わらない社会の構造を批判し、問題提起をしています。この批判は現代ではさらに現実感を増していると感じました。
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