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残されし大地の小のレビュー・感想・評価

残されし大地(2016年製作の映画)
3.4
ベルギーを拠点に活動する監督が2013年、妻の母国である日本に来日。福島について調べる中で、福島第一原発から約12キロの地点にある富岡町にとどまり、ペットや家畜、第一原発で飼育されていたダチョウといった動物の保護活動を続ける松村直登さんの存在を知り、自らメガホンを取る事を決意する。

2015年8月から10月にかけて、福島県で2回撮影。父と暮らす松村さんのほか、背後で除染作業が行われる中、淡々と農作業をする半谷信一さん夫妻、お彼岸の墓参りで放射能測定器を片手に故郷への帰還を先祖に誓う佐藤夫妻の3家族を映し出す。

始まってしばらくの間、誰もいない富岡町の映像が声も音もなく続くシーンは、直前に観た『人類遺産』の続きを見ているかのよう。人の語る言葉も少ないこの映画は、反原発のドキュメンタリーというよりは、人と土地のつながりをテーマとした詩のような雰囲気が漂う。

避難指示に従わず居残る松村さんに半谷さん。避難した住民達が避難所生活のストレスから何人も亡くなっていることが話題になり、自分が何十年も生活してきたこの場所で、これまで通りの生活を続けいつまでも生きてやる、と言わんばかりの強さを見せる。

南相馬市内の雇用促進住宅に住む佐藤夫妻は、市内にある自宅のリフォームをすすめている。奥さんはある日、かつてこの町に暮らしていた友人たちと語らう。庭に実ったイチジクを、もう大丈夫だと食べながら。

放射能汚染にもかかわらず、土地の持つ強さ、その土地と強くつながる人達を描いているこの作品は、その土地とつながれない人達をも思い起こさせる。

自分は今ひとつ入り込めなかったけれど、それは詩的な表現だけでなく、自分が同じような立場になったら、その土地を捨てるだろうと思うからかもしれない。この作品が描く強さが自分には少し痛く感じるのかもしれない。

なお、監督は編集作業のために帰国したベルギー・ブリュッセルで、内覧試写をする予定だった2016年3月22日、地下鉄テロで命を落とした。
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