りっく

サスペリアのりっくのレビュー・感想・評価

サスペリア(2018年製作の映画)
4.5
舞踏と儀式、芸術と魔術。そんな表裏一体の渾然とした世界で絶え間なく観客を挑発し続けるまぎれもない傑作。健康的な女性たちが、圧倒的に不健康な牢獄で、中高年女性たちに見つめられながら、身体をくねらせ、飛び跳ね、回転する。それだけで、なぜこれほどまでに心をざわつかせ、身体の痛みを実感として植え付けてくるのだろうか。美と醜を合わせ鏡に、どんどん思考が麻痺していき、いま見ているものは美しいのかおぞましいのか分からなくなる感覚に酔う。

屋敷の中の地理的な構造はどうでもいい。とにかくヤバいことが今から起こる雰囲気を醸し出す、観客の意識や生理を逆撫でする、畳み掛けるようなカット割り。それが頂点になった時に、いよいよサスペリアを象徴する赤い照明で照らされ、最後のピースがハマってしまう時の高揚感、祝祭感、背徳感。このような感情になったのは、ベンウィッショー主演の「パフューム」以来ではないか。

ナルニア国の魔女であり、ポンジュノ作品等ですっかり狂った中年女性を演じるのが板についてきたティルダスウィントン。だが、スウィントンの背後にまだまだヤバいババアたちが控えているというこのヤバさ。組織を生き長らえさせるために若い女性の肉体を搾取するというシステムの恐怖を描き、それをさらに反転させるという構造もいい。

ドイツ赤軍やハイジャックの話や、この世界の外から警鐘を鳴らし続ける教授と妻のラブストーリーげな話は脇に置いても、作り手が意識的にクレイジーの極みに辿り着いた映画はなかなかお目にかかれない。必見作であり、問題作だ。
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