ボサノヴァ

境界線のボサノヴァのレビュー・感想・評価

境界線(2017年製作の映画)
3.8
アイスランドに旅行中の美男美女が、朝起きたらセカイに2人だけになっていました、という、病んだサラリーマンの妄想(主に月曜の朝に描く)を、そのまま映画にしたような話。好き。

建造物はそのままで動物も生きているが、何故か人類だけが消失している、という便利な設定は、まるで「ゾンビ」のショッピングモールのシーンが永遠に続くかのような憧れの世界。しかもアイスランドなので、景色は最高だわ、夏なのに涼しいわで、正にパラダイス。

とはいえ、品の良い2人だけに、ハメは外さない。(好感)
下世話なことは殆ど起きず、ショッピングカートでちょっとハシャいで怪我をしてしまうような男に、女の子がむくれるくらいだ。

また、このテの映画に珍しく、クリーチャーが出ない。つまりは、邪魔をするものがほぼ何もない状況なので、笑えてくるほど本当に何も起こらない。なかなか思い切った脚本である。

しかし、それがツマラナイかというとそうではなく、次第に浮き彫りになる価値観の相違から、2人の気持ちが離れていく展開が切ない。こんなフリーダムな世界に生きているのに!

「パッセンジャー」という似たプロットの映画があり、あれは宇宙に取り残された男女が、新しい世界を切り開く希望を描いていたが、この映画は、将来に何かを残そうという方向には進まず、ひたすらセカイを閉じようとする。その時に気付かされるのが「必ずどちらかが先に死ぬ」という極めて残酷な真実であり、最後はそれが重大なテーマになってくるのだ。

こんなにも美しい世界なのに分かち合う人が誰もいない、というアイロニーに酔う。人間は生まれながらに孤独である、という生の本質を突いた良作だと思う。
ボサノヴァ

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