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シネマ歌舞伎 女殺油地獄のtubameのレビュー・感想・評価

シネマ歌舞伎 女殺油地獄(2009年製作の映画)
4.4
平成21年の公演をシネマ歌舞伎化したもの。大阪を舞台に、屈折した若者が殺人に至る物語だ。

主役・与兵衛は当代仁左衛門の当たり役の一つだったが、この一世一代公演を最後として以後は演じなくなったため、本作はメモリアルな作品でもある。
当時現地で鑑賞し、その後TV放送でも何回か観てるんだけど、良いものは何度観てもいいなあと今回しみじみ感じたところ。


最大の見せ場はタイトル通り、金の無心を断られた与兵衛が近所の人妻・お吉を油まみれになりながら殺す凄惨な場面だが、必死さや焦りが滲む形相から徐々に殺人そのものへの快楽に酔っていく与兵衛の表情の変化に背筋がゾワゾワさせられる(しかも長尺でじっくり見せてくる。怖い)。
序盤のどうしょうもないがちょっと愛嬌があるダメ息子からの豹変ぶりに圧倒される。事件を起こした人って本当にこんな感じなんじゃないかと思ってしまうほど。仁左衛門さんの与兵衛、やはり絶品!


怖い場面ではあるけど、油で体が滑って二人が転がりまくる姿は、恐怖の中のおかしみとでも言うかブラックユーモアが詰まっているし、乱れた髪と着物で逃げるお吉に襲いかかる与兵衛の見得は歌舞伎の画的にもビシッとキマってて、怖いのに面白いし綺麗というハイレベルな名場面だ。力強い浄瑠璃・バチを叩きつける三味線の音をバックにクライマックスの見得が来るの、何度観ても痺れる。
実際は一ヶ月間演じているので、体力的には本当に大変だっただろうな...。


与兵衛は当時の若者にしては(?)年齢の割に落ち着いてないし、家族にも迷惑かけまくって酷いことするし(それでも心配する親の愛に打たれる)、身勝手過ぎて久々に観ても改めて救いようがないなと思ったけど、その未熟さ・不完全さがあるからこそ人物像が生々しく感じられ、現代でも魅力的な作品なのだろうなと思う。
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