荒野の狼

ゴーストRE:BIRTH 仮面ライダースペクターの荒野の狼のレビュー・感想・評価

4.0
『ゴースト RE:BIRTH 仮面ライダースペクター』は、2015-2016年のTVシリーズ『仮面ライダーゴースト』のVシネマで2017年の作品。私はTVシリーズはリアルタイムで視聴したが、本作は2024年に鑑賞。本作の世界観・登場人物関係は複雑でTVシリーズからの回想シーンなどが何度か登場するが、この部分の十分な理解は、もはや記憶が薄れているので難しい。そこで本作を視聴しはじめてからの冒頭部分は、作品を楽しめるのかどう不安を持ちながら鑑賞。しかし、結局、本作は、そうした背景がわからなくても楽しめる構成になっており、自分の本当の父親が誰なのか悩む主人公(マコトこと仮面ライダースペクター、演、山本涼介)とその妹、父親、友人たちのドラマとして鑑賞すれば楽しめる作品であった。

本シリーズでは妹カノンにべったりの印象だったマコトは、本作では1人で苦悩し闘い、成長していくので、本シリーズより魅力的。

本作の敵役は、マコトの本当の父親と名乗るダントン(演、ジェームス小野田、米米CLUB)は、好演ではあるが、このキャラクターが一体どういう人物であったかを理解しようとした時に、軸が安定していない感じは残る。特に冒頭の流血を伴ったシーンは、本編とほぼ無関係で不要(本編の内容が暗く残虐なものであろうと視聴者に想像させてしまうのだが、実際、本編には特に残虐なシーンも流血もほとんどない)。ダントンは、真情がなかなか明らかにされない役所であるが、ダントンが、落下する岩石の下敷きになりそうなマコトの妹カノン(演、 工藤美桜)を、身を挺して助けるシーンは、本作で最もヒーロー映画らしいヒロイックなシーンであり、しびれる。

「ダントン」の名前は、フランス革命のジョルジュ・ダントンを思い出させるが、フランス革命ではダントンはロベスピエールと手を結んだり、対立したりと、敵味方が入れ替わっ後に、最後には、ダントンは処刑されてしまう。本作のダントンも人類の平和を願うという志を同じくしていながら、かつての仲間と対立してしまう役柄であり、ふさわしいネーミングである。

本作でもマコトはダントンとも、親友のアラン(演、磯村勇斗)とも対決し、相手を倒すことで問題が解決される(アランは、復活するのだが、その過程が描かれていないのは脚本のミス)。こうした力=処刑による解決に救いとなるのが、本作では脇役で「変身」しないTVしリース「仮面ライダーゴースト」の主役であった天空寺タケル(演、西銘駿)。タケルはダントンの娘で好戦的なクロエ(演、 マーシュ彩)に対し、優しく話しかけることによって戦闘を避けている。こうした設定の時は、通常はクロエは悲劇的に倒されてしまうのがヒーロー物の常套なのだが、本作では、いい意味で期待は裏切られ、本作の中をとおして不気味であったクロエとの対立が、タケルの優しさで平和的に解決されていくのは素晴らしい。現実世界でも、紛争の解決が、戦争という人命の犠牲を伴う方法によってなされることが多い中、本作でタケルが、自らの強大な力を封印し、平和的に対立を解消した姿勢はリスペクトしたい。
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