1969年のヴィットリオ・デ・セータ監督作品。イタリアのシチリア島パレルモで貴族の家に生まれた彼は建築家になるためにローマで勉強していたが、イタリアに撮影に来ていたジャン=ポール・ル・シャノワ監督『Le Village magique(1955)』のアシスタントをするなどして映画の道に入っていく。彼が最初に手掛けたのは10分程度のドキュメンタリー作品で1954年から1959年にかけて10本作られている。シチリア島やサルデーニャ島で撮影された彼の作品はカジキマグロ釣りに出かける漁師や地下の硫黄鉱山で働く坑夫、農作業をする人々や羊飼いなど、文明社会から離れて厳しい生活環境で生きる住民を、ナレーションを交えず淡々と描くドキュメンタリーである。しかしその映像のリズム、環境音、音楽が詩的な印象を与える。これらのドキュメンタリー作品を撮ったデ・セータに対してマーティン・スコセッシ監督は「詩人の声で語る人類学者」と評しているが言い得て妙である。 1961年には最初の長編劇映画『オルゴソロの盗賊』を撮る。これは慎ましい生活をしていた羊飼いの男が殺人の嫌疑をかけられ、弟と共に逃亡生活をし、結果的に盗賊になってしまう話だ。飾り気のない映像表現や題材はドキュメンタリー時代から地続きで、似た名前のヴィットリオ・デ・シーカ監督の映画史的不屈の名作『自転車泥棒(1948)』と似たストーリー展開ということもありネオレアリズモ映画の直系に当たる作品だ。 続く『半人前の男(1966)』は精神を病んだ作家の物語で、現実、記憶、妄想、夢がごちゃ混ぜになった展開で、それまでのデ・セータのリアリズムを主体とした映画文体とは大きく異なるが、フェリーニ監督にユング派のエルンスト・ベルンハルト博士を紹介したというエピソードのあるデ・セータなので精神世界への関心を全面に出した作品と言えるだろう。