ちろる

奇跡の絆のちろるのレビュー・感想・評価

奇跡の絆(2017年製作の映画)
3.7
「あの人と話をして。」
愛する妻デビーが言った時、気が狂ったのかと思った。
体が大きく、気の棒で威嚇する黒人のホームレス。こんなヤツと話して何になるのだ、もしボコボコにされたら人溜まりもない。

浮気バレしたせいで妻に言われた通りにホームレスへのボランティアに参加する事になったロンが、妻に言われるがまま触るもの皆傷つけそうな危険な黒人男性デンバーと出会う事で運命が大きく変わっていくお話。

あまり期待せずに観たらグイグイと引き込まれた作品。
実話ベースなので派手な演出もなく無駄な御涙頂戴もないのが良かった。

(心優しい妻のデビーがレネー・ゼルウィガーだと気がついたのは物語後半のこと、顔変わりすぎてわからなかった!)

自分の体よりも大きな魂をかかえて傷ついた心を隠して生きるデンバーの事をひと目見てデビーが助けようとしたのは、デンバーが夢に登場する人物だったから。
ここらへんが、スピリチュアルとキリスト教色が強くて受け入れられない人もいるかもしれない。
でもこれが実話であるように、こう言う事って私は実際にあると思っていて、だからこのデンバーとこの夫婦の繋がりにどう言う意味づけがされるのだろうかと知りたくて観進めていった。

デビーの声がなければ近づくことさえなかったロンとデンバー。ロンはデンバーが幼い頃から受けた不条理な仕打ちに心打ちのめされ、少しずつデンバーのようなホームレスへの考え方を改めて行く。

お告げのような夢がなければ、つながらなかった2人。2人はデビーの死後、講演活動をして各地を周り、その収益でホームレスのための施設を作るようになるのだが、それにしても全部何もかも見透かしてるようなデビーがすごい。
お葬式で、デンバーを友人代表スピーチに選ばなければ、あのデンバーのスピーチは人々に御目見することはなかった。
だからデンバーの存在こそがデビーからのギフトでもある。

いま、コロナ禍だけではなくウクライナ侵略の戦争の始まりで世界は分断され始めている。
肌の色が違う
目の色が違う
話す言葉が違う
愛する対象が違う
言い始めればキリがないほどに、分断の芽は生まれていくけれど、私たちが同じ人間であるし、逆に誰もが皆違うとも言える。
無駄な分断が憎しみを生み、やがて残酷な殺戮へと向かっていくわけだけど、「私たちは神が敷いた道を歩く普通の人間です。金持ち、困窮者、その間にいる人、みんなホームレスです。みんな家に帰るまではホームレス。」と唱えたデンバーのこのスピーチが今戦う全ての兵士の耳に届き、銃を置き、そして平和を祈ってほしい。
この映画に漂う純粋な愛のメッセージが多くの人の心を洗ってくれればいい。
そう願わずにはいられませんでした。
ちろる

ちろる