ちろる

夕陽のあとのちろるのレビュー・感想・評価

夕陽のあと(2019年製作の映画)
3.8
孤独と貧困の最中にいる人は助ける術すら知らない
泣き声さえも電車や車の走る音にかき消される。

乳房にたまる染みは私の苦しみの証そして罪の証

苦しいのに悔しいのにいつからか泣き方を忘れた。
もちろんそれ以上に笑い方はもっと忘れてた。
でも、この島にきて愛するあの子に出会う毎日が心を溶かして、また自然に笑うことができるようになった。

笑うことくらい許されるよね?

鹿児島県の小さな島に一年前にやってきた茜は食堂で働きながら穏やかな毎日を過ごしている。
楽しみにしているのは食堂前を通る通学の子どもたちと触れ合う事。
特に7歳の豊和は茜に懐いている。

そんな茜にはとある重い過去があり、その事がこの島に来る事情と繋がっていた・・・

一度犯した罪は拭えないけれど、やり直すことは許されないのか?
やはり、犯した罪は背負い続けるしかないから完全に元通りにはできない。
しかし、実の母が、手放した我が子を思い切り抱きしめる事は許されないのか?
茜の苦しみが痛いほど伝わるから、もう里親がいて、母でいることが許されない現状があることが見ていて切なすぎる。
感情のみで考えれば、茜も、そして勿論里親も幸せになってもらいたい。
共に子どもを見守る事が許されればどんなにいいか。
どちらの親の叫びも本物で、どちらも同じくらい子どもを愛してるから。
貫地谷しほりは勿論素晴らしいが同じくらい山田真歩や木内みどりの演技にも心が動かされる。
良い男性に恵まれた女と、恵まれなかった女の違いでここまでに人生は変わるものなのか・・・
もし、茜があの時この優しい島で育てていたらきっと違っていたかもしれない。
殺伐とした都会に押しつぶされた彼女のようなシングルマザーはきっと大勢いるだろう。

キャスティングはもちろん、ご都合主義すぎない秀逸なプロットで、社会的問題に焦点を当てた本作。
もちろんエンタメ性は皆無だが、非常に見応えがある作品だった。
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