マーチ

マーウェンのマーチのレビュー・感想・評価

マーウェン(2018年製作の映画)
3.7
【感想】

《空想に生き、空想によって乗り越える》

サンダーバードみが強いが(笑)、やっぱりこの現実と空想をシームレスに横断する技量の高さが必要な映像表現は、ゼメキスにしか出来ないよ。

BTTFを想起させられるセルフオマージュシーンがあったり、ゼメキスが作るべくして作り、出会うべくして出会った実在の人物なのではないかと思わずにはいられないほど力強い仕上がりの作品になっていた。

ヘイトクライムによって一部の記憶を失った主人公。加害者に相応の罰を与えるためには、どうしても本人たちのいる法廷で証言しなければならない。それがどれだけ苦しいことなのか十分に伝わってくるし、スティーブ・カレルの好演は彼以外に考えられないほどのナイスキャスティング。

他人に迷惑をかけていないのであれば、個人の嗜好や趣味は当然尊重されるべきで、それを他人がとやかく言うべきではない。ましてや、個人の価値観や集団心理で他人に危害を加え、ヘイトクライムを起こすなんてもってのほか。映画好きは近年そういった作品に多く触れてきているから、いい加減ポリコレとかに疲れてきたという意見があるのかもしれないし、それも分からないではないけれど、映画やSNS等での理想が現実に反映されているかといえば、まだ全然初歩もいいところ。世界にはヘイトや偏見や自己中心的な憎悪がまだまだ渦巻いているし、ポリコレが加速する一方でそれらは増幅しているようにすら感じられる。だからこそ、この物語が必要だし、空想世界に身を投じてでも自分の居場所を確保しておく必要がある。そして、手を差し伸べて個人の生き方を肯定してくれる人が少しでも周りにいないといけない。そうじゃないと、ひたすら絶望の淵から抜け出せなくなる恐れすらあるから。

主人公には頼もしい人形たちがいて、その人形たちの精神を司る周りの人々がいた。彼が法廷に持って行ったのは他でもない「自分」そのものだったし、いつまでも他人は“自分以外の痛み”には鈍感なままだから、たとえ苦しくとも自分が成長していくしかない。

この作品、表面的には感動作だが、ある点で引っかかりを覚えるのも確か。そこで拒否反応を示す人もいるのだろうし、本国の批評家が指摘してるのも多分あそこだと思う。個人的にも感動できる部分がある一方で、その部分の今の社会から見た何の気なしな踏み込み具合は気になったけど、わざわざそこを捌いていないってことは、ゼメキスはあれを確信犯的にやっているのではないか。勿論、単に実際の話を尊重しただけなのかもしれないけど。
でもそういった意味では、あれをどう捉えて解釈するか、観客側が試されている作品なのかもしれない…
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