りっく

デイアンドナイトのりっくのレビュー・感想・評価

デイアンドナイト(2019年製作の映画)
3.8
自動車部品の不具合を告発した下請け企業の社員の声が握り潰され自殺した事件を機に、その息子が復讐を企てるという始まりは、まるで池井戸潤のようなである。

だが、本作はそこから正義を掲げながらも決して理想を振りかざすだけでなく、秋田という地方都市で既にガチガチに構築された長年の搾取や忖度のシステムの中で、地に足を付けて生活しなければならない人々の苦悩と諦念と足掻きを、決して説明的ではなく画と役者で魅せる。

日本の地方都市の閉塞感とそこからの脱出というフォーマットはありつつも、例えば海岸沿いにそびえ立つ風車の回転と停止、それを受けたカメラワークが、地方都市の中でお金、さらには人々の人生や運命が廻る様を効果的に暗喩する等、映画的な見所と雰囲気にセンスを感じる。

また、施設に引き取られ卒業を迎え、家族という概念と悲惨な過去の中で引き裂かれる繊細な役柄を見事に演じた清原果耶の素晴らしさ。「透明なゆりかご」「愛唄」に続く好演で、同世代の女優の中では頭一つ抜き出た存在で今後が楽しみである。

夜の仕事も請け負いながら正義感で告発する親父の行動はあまりにもリスクが大きく現実味がない、またその息子も親父同様すでに地元の有力企業の息がかかっていると分かりながらも、SNSや全国紙やテレビ局ではなく地方紙に資料をリークするという親父と同じ過ちを犯す軽薄さなど、一部脚本の粗はあるものの、プロデューサーの山田孝之以下、志の高い映画人が集った秀作として見逃すべきではない作品であることは確かだ。
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