Stroszek

バッド・ジーニアス 危険な天才たちのStroszekのネタバレレビュー・内容・結末

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このレビューはネタバレを含みます

教師の娘リンラダーは、成績優秀者のための奨学金と授業料免除を得てタイの私立高校に進学する。学生証の写真撮影で身なりを整えてくれたグレースは成績が悪く、リンに勉強を教えてもらう。そして臨んだテストの際、勉強した範囲であるにもかかわらず、グレースは解けないと言う。リンは消しゴムに答えを書いて密かに渡す。グレースのボーイフレンド、パット宅での打ち上げに参加したリンは、彼から同じことをしてほしいと持ちかけられる。一度は断るリンだったが…。

リンが悪事に手を染める瞬間の描写が秀逸。「あ、この方法で行けるじゃん」と、数学の解法を思いついたときのような感じで、罪悪感がない。彼女の頭脳が金持ちの友人たちの財力・実行力を得て実現して行く様子はケイパー物のようで爽快なんだけども、彼女が後ろめたさをあまり感じていないようなのは、持って生まれた圧倒的な財力の差をヒシヒシと感じているからだろう。中盤で彼女がバンクに言う、「私たちは生まれながらにして負け犬なの。人一倍努力しなけりゃならないの」という言葉に動機が表れている。

リンは頭がめちゃくちゃいいのだが、まだ世間知らずである。パットやグレースの父親の寄付金は私立学校の合法な慣行なのだが、それを理解せず校長に「先生だって賄賂を貰ってるじゃない」と言ってしまう。

不憫なのは、彼女らによって悪の道に引き摺り込まれたもう一人の奨学生バンクだ。リンよりも貧しい家庭(シングルマザーの営むクリーニング店)で育ち、将来は留学して生まれ育った階級から抜け出し、母親に楽をさせたいと願っている。

彼が最後、「俺一人では堕ちない。お前も道連れだ」と、今度は自分がリンを堕落させようとする。最終的に彼がグレース、パットらの悪事をバラしたのは自然な話だ。彼らは全員、STIC(映画内の架空の試験)もSATも今後は受けられない。留学の道は途絶えたということだ。彼の行いは、一見学歴社会のようでいて、実は親の財力によって子どもの人生が左右される、教育・経験への重課金社会に対する、正当な復讐に見える。

リンは父親のサポートもあり立ち直るだろう。グレースもパットもなんだかんだ言って、親がなんとかしてくれるだろう。しかしバンクはどうなるのか?金のために不正を犯した人間という汚名を背負い、貧しいシングルマザーを抱え、これからどう生きて行くのか。私が見たいのは、彼が自分を殴ってきた社会に対しやり返し、復讐を遂げたことにより立ち直る物語だ。

通常、こういう話だと主人公が『クリミナル・マインド』のスペンサー・リードのような映像記憶(eidetic memory)の持ち主として描かれがちだが、リンとバンクは片目を隠して欄の半分を必死で記憶する。悪事がいつ発覚するかという緊張と記憶力の限界というダブルバインドの瞬間を、キリキリと胃が痛むような緊密さで描いていてよかった。
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