胃潰瘍のサンタ

ターミネーター ニュー・フェイトの胃潰瘍のサンタのレビュー・感想・評価

3.7
リンダ・ハミルトンとマッケンジー・デイヴィスが最高にカッコいい。特にリンダ・ハミルトンが激渋。

『ターミネーター』シリーズは最初に自分を映画に引き込んだ作品で思い入れが強い。『2』で終わっててほしかったとは思いながら、続編があると劇場でなくとも必ず観てしまうのは、ほとんど二次創作を期待するような気持ちだ。
だから、「このシリーズの軸はサラだ!」とちゃんとサラ・コナー"本人"を登場させたティム・ミラーは、ファンとして信用が置ける。

実際ここまでの3本を振り返ると、このシリーズは重点の置き方、つまり「何をもってターミネーターらしさとするか」が極端に難しい。
ロボットの反乱なのか、ロボットがタイムトラベルしてくるというコンセプトなのか、それともキャストなのか。
特に難しく、皆が苦しんだのはジョン・コナーの扱い方だろう。

『3』では、ジョンはうだつの上がらないその辺の青年になっている。
人物としてのジョン・コナーは背景となり、シュワちゃんの55歳筋肉と寒い悪ノリだけで前2作の焼き直し路線を突っ走った挙げ句、ラストで唐突に「審判の日は避け得ないのだ!」という激重ロジックを持ち出してビックリするぐらいの迷作になった。
小学生の頃に映画館で観て言葉を失ったのを今でも憶えている。

逆に世見の評判に反して『4』は嫌いではなかった。ジョンやカイルといったキャラクターを再定義するプリクエル的な作りで、良くも悪くもマックGのケレン味が目立つが、あの『3』の続きと考えれば意外に良い勝負をしていたし、これはこれで続きが観たかった。

『新起動』では、遂にジョンを"禁じ手"で葬った。
前2作をなかったことにして「T2の正統続編!」とぶち上げたこちらの重点は、タイムトラベルのギミック。過去作を徹底して捻る前半こそ面白かったが、あれほどの掟破りを犯しながら、あまりに単調で脳筋なアクションに堕した後半で心底ガッカリ。アラン・テイラーの空虚な演出も相俟って、「こんな感じだったらもう続編は一切やめてほしい」
……と、そう思った矢先。

遂に生みの親キャメロンがAIと人間という「今」をテーマにしてシリーズ復帰。しかも、聞けばジョンをあっさり処理してサラをメインに置くという。これならばもしやという想いが。……まあ、映画館には行けなかったけど。

で、本作。4年経ってようやく鑑賞した。
内容としては、1作目の構造を踏襲することで、実質3作目を作り直してリベンジしました、という感じ。
敵ターミネーターと互角にやり合う強化人間の設定、新たなレジスタンス指導者など、「おっ」と思える新機軸。アクション映画としても、最初から最後までスピード感満載のアクションの釣瓶打ちで申し分ない。素直に面白い作品に仕上がっている。

しかし、キャメロンの構想通り続きが観たいかと言われると、「もうこれで終わりでいいじゃん」が正直な感想。
ひたすら逃げまくる展開から未来を変える展開へとシフトした『2』の強烈なエモーションが、続きを上塗りすればするほど台無しになっていく。

主軸の一つであるAIとの関係にしても、今までになく人間的になったシュワちゃん型101は魅力的だったが、この程度のドラマは既に『2』で包接可能なところまでやってしまっており、バリエーションの一つでしかない。
何より、タイムパラドックスに関するロジックが妙に複雑になってしまった結果、「じゃあ結局守っても殺してもイタチごっこにしかならんやん」と冷めてしまうのがよろしくない。
もし、今回の実質主人公であるダニーの決断だけに重きを置いた物語であれば、1作目と対になるラストが次なる展開を期待させたかもしれないが、中盤登場のシュワちゃんが無駄に活躍しまくるせいでドラマ軸がブレてしまい、ダニーのキャラやグレースとの関係が浅い描写で片付けられて、何だか煮えきらない。
新たな敵ターミネーターにしても、人間体と本体を分離できる能力では、あからさまなロボットがガンガン他人前に姿を晒す絵面になってしまい、「これってあの『ターミネーター』である必要あるのか?」という疑問さえ湧く。隠密行動可能でどこからでも襲ってくる緊張感が売りだったんじゃないのか。

よくまとまってはいたし、2時間久々に熱中できるぐらい面白かったものの、鑑賞後の感情は満足というより、迷走シリーズの息の根を止めたのがキャメロンその人だったことへの感慨と寂しさの方が強かった。
これだけ面白くて心がついていかないんだから、やっぱり『2』で終わっておいてよかったし、完結編だとしてもこれで十分。続きはもういいよ。