もりあいゆうや

ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッドのもりあいゆうやのネタバレレビュー・内容・結末

4.0

このレビューはネタバレを含みます

タランティーノのがシャロン・テート事件を題材に、ディカプリオとブラピを主演に迎え60年代のハリウッドを描く。

映画ファンを興奮させる最高の文字列。

実際、スクリーンに2人が並び、2人の名前が並列にクレジットされた時には、歴史的瞬間を目にしてるようで、とんでもない幸福感が溢れ出た。

今作では、ディカプリオは大いに笑わせてくれて、ブラピは大いにスカッとさせてくれる。
シャロン・テートを演じたマーゴット・ロビーも、60年代当時の衣装・メイクがバッチリとハマり、主演2人に劣らぬスクリーン映え。
意識の高い小ちゃい女優さんと関係性を深めていって、その子に褒められて感涙するディカプリオや、火炎放射器をブッ放すディカプリオや、ツイストを踊るディカプリオは、その表情だけでもう笑える。
鼻につくブルース・リーや生意気なヒッピーをボコるブラッド・ピットは、ストレートなカタルシスを与えてくれる。
自分の出演作のポスターの前でポーズをとるマーゴット・ロビーは、『スーサイド・スクワット』のハーレイ・クインに劣らないキュートさ。


映画紹介サイトだと、「『ワンス〜』を見る前にこれだけは知っておきたいこと」系の記事が多かったり、
ライムスター宇多丸さんのラジオや、各種作品レビューでも、「最低限、シャロン・テート事件は知っておいた方がいい」というのをしきりに見かけたが、観終わってその意味が分かった。
たしかに、これから観る人にはそう薦めるのが良い。

この映画の宣伝文句の一つに、「映画史を変えるラスト13分」というのがあるが、こういうコピーにはやはり自分は否定的で、「おいおいラスト13分になにがあるんだよ、意識しちゃうよ、できる限りフラットな状態で観たかったよ」と思っていたが、結果的にこの映画に関してはこういう宣伝の仕方が許されるのだなぁと思った。
まんまと「ラスト13分」と「シャロン・テート事件」の意識を持ったまま映画を観進めて、まんまと大仕掛けにハマってしまった。
今考えると、チャールズ・マンソンの不気味さを際立たせた予告も、いい仕事してた。
ここまで心地よい騙された感を与えてくれる映画はこの先にはもう出てこないだろう。初鑑賞時に、観る側の事前の準備、心構えがうまく機能したからこそこの体験ができたのだ。
映画を観ている約2時間だけで形成されたものではない。

この映画はつまり、「嫌な予感」を観る側が勝手に感じ取り、積み重ねていって、最後にそれを浄化させるのではなく、とんでもない方向に蹴り飛ばしてしまう、そんな映画だ。

リック・ダルトン、クリフ、シャロン・テートにスポットを当て、事件当日と、その半年前の2日間の様子を描いている。
その例の「ラスト13分」になるまでは、ただただ3人のその日のその時間を切り取ったというような形で、特にドラマティックな展開はない。
表面上は、3人の仕事やプライベートでのその瞬間のスケッチだが、その中には、ラスト13分に繋がる伏線と、「シャロン・テート事件」が念頭にある観賞者を不安にさせる要素が巧みに散りばめられている。
例えば「1969年2月8日」のようにテロップで劇中の日時が表記されるが、事件までのカウントダウンのようで緊張感と共に少しの不安がよぎる。
ドッグフードがあげ方含め汚らしい。パッケージにネズミの絵が描いてあり、生理的な嫌悪感もある。
シャロン・テートが、ワクワクしながら自分の出演作を観たり、夫のために『テス』を買ったりするシーンは、シャロン・テートが楽しそうにすればするほど、この後に待ち受けている悲惨な運命を連想させてしまう。
もっとわかりやすいところでいえば、チャールズ・マンソンが家を訪ねてくるシーンや、牧場での一連のシーンは、ストレートに不気味で恐ろしい嫌な雰囲気を出している。
事件を脳内で結び付け、表面上描いているシーンの未来を勝手に予想してしまう。
そういう「予感」の映画である。

ラスト13分は、そういう予感の積み重ねがピークに達した時に始まる。バイオレンスシーンの連続に圧倒され、アレッ?っていう間に終わる。
かなり平和的な終わり方。
思慮を巡らし、さらに平和的な気持ちになる。


パンフレットは、ストーリーや登場人物紹介はもちろんのこと、メインキャスト・監督・プロデューサーインタビューや、シャロン・テート殺害事件とチャールズ・マンソン、当時のアメリカンカルチャー、今作までのタランティーノフィルモグラフィー、挿入歌の解説や、トリビア付きロケ地マップなど、コラムもかなり充実しているので買う価値あり。
劇中で出てきたリック・ダルトン主演映画のポスターデザインも全部載っていて、しかも『素早く殺せ リンゴ』のポスターは実際に付録として折り込んであり、至れり尽くせりである。
しかもしかも、このポスターは両面になっていて、もう片面は、今作の映画看板風イラストのビジュアルが描かれている。
しかもしかもしかも、『素早く殺せ リンゴ』側は滑らかな滑り心地のマット紙仕上げなのに対し、その裏面は少しざらついたクラフト紙風になっているというこだわりよう!
ここに予算を費やしたパンフレット製作者に拍手を送りたい。
インタビューでは、ディカプリオが『愉快なシーバー家』に触れていたり、プラピがいままでディカプリオとの共演がなかった理由を語ってたり、マーゴット・ロビーがタランティーノの家に行って脚本を読んだ時のエピソードを語ったり、タランティーノが時間が許せばリックが日本へ出稼ぎに行って怪獣映画に出演するシーンを撮りたかったって言っていたり、分量こそ軽めだがどれも興味深い内容となっている。
ただネタバレもあるので、初回鑑賞前に観る人は気をつけるべし。


※一つ分からなかったのは、クリフと車の関係。
クリフのシーンには、やたらと車が出てくる。
最初の方なんかはずっと車の運転してるし、ブルース・リーとのバトルでは、車にぶん投げるし、牧場ではタイヤにイタズラされるし、最後の最後には、救急車に乗ってクリフは終了。
何かのメタファーなのか、何かへのオマージュなのか。
それとも偶々か?