りっく

5時から7時までのクレオのりっくのレビュー・感想・評価

5時から7時までのクレオ(1961年製作の映画)
4.1
冒頭のタロットカード占いの場面から痺れる。俯瞰したキャメラは、カードをテーブルの上に並べ表にめくる手だけを画面上にカラーで映し出す。その惚れ惚れするような手の動きの間に、クレオと占い師の表情をモノクロで切り返しで映し出す。そしてクレオが退出し、占い師がドアノブを握り扉を締め、そして別のドアノブを握り扉を開ける。ここまでの一連の俳優とキャメラの所作が実に美しい。

本作はカラーとモノクロの世界が裏表であるように、常に生と死が裏表であることを示唆する。クレオは鏡の前で美しいうちは生きていけると自らを鼓舞する。随所に鏡が効果的に配される中で、彼女が覗き込むそれは美と生の確認作業でもある。だからこそ、おしゃれなパリを歩き回る彼女には常に不吉な影や危険がつきまとい、その瞳は不安定で恐れを感じさせる。

彼女は街に出て、同じ店内にいる人々の声を必要以上に聞き、そして行き交う人々の顔をのぞき見る。一方で、人々もクレオの方をじっと見つめるカットが重ねられる。この見る/見られる関係が鏡の演出と呼応し、見られる職業である芸能の世界で生きること、美しくいることの窮屈さや強迫観念さえ体感させる。

終盤になると鏡が割れる場面がある。ここで彼女は見る/見られる関係性から解放され、やがて一人の男性と出会い、見つめ合い、手をつなぐ。その些細な所作が冒頭の演出とこちらも呼応するからこそ、クレオの心情の変化が手に取るように伝わってくる。これぞ映画の演出であり、醍醐味である。
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