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グッド・ヴァイブレーションズのStroszekのネタバレレビュー・内容・結末

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このレビューはネタバレを含みます

北アイルランド紛争(The Troubles)の時代(1970年代)、ベルファストでグッド・ヴァイブレーションズというレコード屋を開き、パンクバンドのレコードを作るようになり、「ベルファスト・パンクのゴッドファーザー」と呼ばれたテリー・フーリー(Terry Hooley)の物語。

登場するバンドはThe Outcasts、RUDI、The Undertones(アンダートーンズは"Teenage Kicks"で一躍有名になった)。

BBCラジオのDJ、ジョン・ピールも登場したり、北アイルランドが「パンクの最後の聖地」と呼ばれていたり、当時のイギリス音楽事情がうかがえて面白い。

1980年、アルスター・ホールで所属バンドのライブを開催するのが本作の山場だが、「ソニー・ボノの歌を歌うぜ」と、バンドボーカルではなくレコード屋店主のフーリーが歌うので「なぜ?」と思った。U2はダブリン出身のバンドであり、アイルランド共和国のバンドの歌を北アイルランドのギグで歌う、というのがどういう意味を持つのか考えさせられる。彼が歌う前に行う「パンクはニューヨークに新しい髪型を、ロンドンに新しいファッションを与えたが、ベルファストには生きる理由を与えてくれた」というスピーチが激アツである。

北アイルランド紛争中のベルファストが舞台だが、政治的(IRA対警察)・宗教的対立(カトリック対プロテスタント)にはあまり踏み込まず、テリーの政治的主張も明らかにはされない(「カトリックとかプロテスタントとか、考えたこともなかった」というセリフがある)。しかしテリーが幼少時に「俺の父親は共産主義者だ!」と叫んで同年代の子供に撃たれて片目を失っていたり、店内でネオナチに襲われていたりと、常に思想や歴史に基づく対立の影が差している。北アイルランド紛争が始まってから、アナーキストもフェミニストも共産主義者もいなくなって、プロテスタントとカトリックの対立だけになったとあり、グッド・ヴァイブレーションズ開店時の北アイルランドがどういう状況だったのか浮き彫りにされる。

歴史に素養がなく解像度の低い人間が一歩間違えると「そうそう、音楽はすべての対立を超える!音楽で一体になろう!音楽に政治を持ち込むな」案件だと勘違いしてしまいそうだが、むしろ「政治に対抗するものとしてのパンク」の歴史を強烈に描く映画である。BBC Films Northern Irelandという製作であり、ほぼ官製作品と言っていいことから考えてもその歴史性や後世に残すための資料として作られた映画であることは明らかだ。

個人的には、「パンクの父としての姿は素晴らしいかもしれないが、私生活では妻子を大事にしないクソ野郎である」と正直に描写しているのが偉いと思う。
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