KUBO

この道のKUBOのレビュー・感想・評価

この道(2018年製作の映画)
3.8
12月6本目の試写会は「この道」。あの有名な童謡「この道」の作者 北原白秋と山田耕筰の物語だ。

あまり期待せずに見たのだが、かなり良かった。私は大森南朋という俳優は使いどころが難しい俳優だと思っているのだが、本作の北原白秋役は当たり役。無邪気で、泣き虫で、だらしない、だが憎めない人間味あふれる人間像を生き生きと演じて、彼の代表作となった。

女にだらしなく、隣の人妻に入れ込む白秋を与謝野晶子がたしなめる。お前が言うか!って感じで面白い。この隣の人妻役の松本若菜がとっても美しい。与謝野晶子役の羽田美智子も良い。

飲み屋に集まる白秋の友人たち。石川啄木、高村光太郎、萩原朔太郎、室生犀星らが集い、あたかも日本版「ミッドナイト・イン・パリ」のよう。

「赤い鳥」の連載が始まってからは、日常の台詞の中に、誰もが知る童謡の歌詞が自然に使われていて、これはもう「ずるい」って言ってもいいレベル。「こんなヒントでこの詩ができていったの?」なんて、ついニヤニヤしてしまう。

中盤以降に出会うAKIRA演じる山田耕筰。こちらも最初は懐疑的に見ていたんだが、どうしてどうして、たいへん素晴らしかった。「たたら侍」のときの武士には違和感を感じたが、大正時代の芸術家にはピッタリハマった!

AKIRA登場後はバディものに変わっていき、ついにタイトルにもなっている童謡「この道」の誕生へ向かう過程はガンガン楽しくなっていくんだが、だんだんと日本にも戦争の足音が聞こえてくる…。

もしかしたら年齢限定かもしれないけど、大人にはかなり楽しめる。試写会場では一般試写にもかかわらず拍手が起きた。エンドロールにかかるATSUSHIによる「この道」も心にしみた。

懐かしく、あたたかく、日本の心を伝えてくれるような、素晴らしい作品だった。
KUBO

KUBO