アリスinムビチケ図鑑

この道のアリスinムビチケ図鑑のレビュー・感想・評価

この道(2018年製作の映画)
4.0
『この道』と言う唄が、こんなにも感動する唄だとは…。
この映画を観るまでは思ってもいませんでした。


戦争を背景に、北原白秋と山田耕筰の出会い、動揺の作られる風景を切り取った作品です。

北原白秋は元来は詩人で、与謝野鉄幹・晶子夫妻との繋がりを深く持ち、
石川啄木、高村光太郎など、名だたる文豪とも同じ時代を生き、酒を酌み交わす等のエピソードは感慨深いシーンでした。

日常の場面・音を拾う様に表情豊かな白秋の詩は、リズム感があり、詩としても心に響きますが、
山田耕筰の情緒溢れるメロディや、口遊み易い親しみのあるメロディによって、
正に命を得た様に生き生きと語り掛けて来る様にすら思えました。

ダメな奴だけど心は純粋。
女が好きで、子供が好き。
そんな白秋の作る詩は、いつもそれに寄り添う様に、
同じ目線で見たものを独特の感性と言葉で語りかけて来ます。

"ぴっちぴっち ちゃっぷちゃっぷ らんらんらん"
"赤い鳥小鳥 なぜなぜ赤い 赤い実を食べた"
"かえろかえろと なに見てかえる
寺のついじの 影を見い見いかえる
「かえろがなくから かえろ」"
(カエルが鳴くから帰〜えろ だと思ってました(笑))

子供の様な純粋な心を持つ白秋だからこその表現で、
いかにも心から楽しんでいる風景が伝わります♪

そんな白秋の魅力に惹かれて集まって来る仲間や女性達の気持ち、分かります😊

そして誰よりも惹かれたのは山田耕筰だったんだと思います。

戦争の影響を受け、好きな詩や曲を書く自由を奪われても、
時代のうねりに呑まれる事なく寄り添う二人が素晴らしい。


この道はいつかきた道
ああ そうだよ
あかしやの花が咲いてる

あの丘はいつか見た丘
ああ そうだよ
ほら 白い時計台だよ


この道は何処かにある道を指しているのではなく、其々の心の中にある道なんだから何処でも良い

そんな白秋の歩んで来た人生の長い道のり、
重ねて来た悲しみや喜びのある風景が、
詩となり唄となって描かれたからこそ、心に響くのでは、と思いました。

当たり前の様に歌われて来た童謡の裏には、
こんなに素敵な数々のエピソードや、苦い思い出、沢山の人の想いが詰まっていたことに感動します。

童謡は、
1人の天才的な詩人と彼の才能に惚れ込んだ男、
二人の生涯を鮮やかに描いた賛歌だったのでは無いかと思いました。