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家へ帰ろうのマーチのレビュー・感想・評価

家へ帰ろう(2017年製作の映画)
3.8
【感想🛤】

TSUTAYAでかなり盛況にプッシュ&レンタルされてたので借りてみた。個人的に大好きな“頑固ジジイ系”の作品かと思っていたら、地盤のしっかりした社会派ロードムービーだった。

といっても、個人的に(ロードムービーではあるけど)あまり“ロードムービーな感じ”はせず、どちらかといえばヒューマンドラマ的要素の方が強いと思った。今作を観て真っ先に頭に浮かんだのが『手紙は憶えている』で、あっちは復讐劇なのでフィクション性が高いけど、こっちはリアリティの面が大きいので(フィクションではあるが)ノンフィクション性が高い。

ドイツ人とユダヤ人、日本人と韓国人、歴史的背景と社会の現状、溝は今も深まるばかりだが、それは“決して埋まらない溝”じゃない。最近観た『慶州 ヒョンとユニ』という映画で、日韓問題に対する歩み寄りとその受容に関する(一種の方法論というよりは)「こうあればいいのに」という姿勢を提示していたが、この作品ではドイツ人とユダヤ人におけるそれを示している。どちらかが手を差し伸べる、その手を振り払わずに受け入れ、繋ぐことができるか。

乗り換えのくだりには胸が痛むが、あの分かっていようが分かっていまいが関係なく露呈する無関心ぶりの描写は、平和ボケした現代へのメタファーなのかも。

終盤を除けば、割と分かりやすさに終始した演技に途中途中でほんの少しノイズを覚えたが、それを補って余りある一貫して洗練された演出力の高さには目を見張るものがあった。冒頭での孫との会話のやり合いで直ぐに心を掴まれるし、ユーモアからシリアスへの転じ方も実にスムーズで自然。この監督、わざわざ動向を追わずとも、またどこかで作品に出会えるかもという安心感がある。

終盤のクララが立ったばりに感動的なジジイが立つシーン、直前に付き添いの女性を意図的にフェードアウトさせ、2人だけの世界を構築する流れもお見事。

要所要所で適度にキャラ付けされた映画的に魅力的な人物たちが出てくるが、この映画である種の“希望と願い”を込めて描かれているのは、いざという時に誰かが助けてくれる優しい世界。主人公が何かと弱気になったり断念しようとした時にそっと手を差し伸べたり、背中を押してくれたのは彼らで、その喜びこそが孤独ジジイ映画には欠かせない重要な要素だと個人的には思っている。他者を分かり合うこと、受容すること、その延長線上にある助け合い。(最初にロードムービーな感じは個人的にあまりしなかったと書いたけど、)そういった旅におけるほんの些細な“出会いと別れ”こそが、今作の肝心なロードムービー要素だと書いていて今気付いた。笑
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