真一

教誨師の真一のレビュー・感想・評価

教誨師(2018年製作の映画)
3.8
 国家によって絞首刑に処せられる死刑囚たちを目の前に、語る言葉をなかなか見いだせない教誨師の葛藤を描いた良作。キリスト教牧師の佐伯保(大杉漣)が向き合うのは、大量殺人のファシスト青年、懲りないやくざの組長、大阪のおばちゃん美容師など、個性豊かな6人の死刑囚。佐伯は神の御心に従い、6人の心の扉を開けようと努力するが…

※以下、ネタバレ含みます。

 手に汗握ったのは、ファシスト青年・高宮(玉置玲央)との対話だ。イルカ殺しが非難される理由を聞かれ「知能がブタやウシよりも高いからだと思う」と答えた佐伯に対し、高宮はたたみかける。

 「俺もあんたと同じ考えだ。知能が高いものは生かし、知能が低いものは淘汰する。それがこの世の定めだ。馬鹿が蔓延る世界は必ず滅ぶ。あんた、俺がした事のどこが悪いか言ってみろ」

 高宮というキャラが、知的障がい者施設で大量虐殺を繰り広げた植松聖をモデルにしているのは明らかだ。佐伯は「ヒトは、ヒトです。誰もが生きる権利があります」と正論を訴えるが、その言葉に自信は感じられない。忌まわしき優生思想に良識が論破された印象を、観る人に与えるシーンだ。

 そこがいい。「上っ面の道徳論で封じ込められるほど、ファシズムや優生思想はやわじゃない」という厳しい現実を、本作品はしっかり捉えていると思う。

 だが、その高宮も、いざ死刑執行直前になると、底知れぬ恐怖にさいなまれ、馬鹿にしていたはずの佐伯に抱きつき、嗚咽を漏らす。その高宮を、佐伯は万感の思いで抱擁する。この瞬間、観る人は、こんな思いを感じずにはいられないだろう。

 「高宮を粛清し淘汰する死刑システムも、結局はファシズムや優生思想を土台に据えているのではないか」と。

 ここで観る人は、死刑制度の恐ろしさに改めて気付かされることになる。

 世界190ヵ国のうち、死刑廃止国は実に140ヵ国以上に上る。こうした世界の潮流から外れ、なおも死刑を執行している国の一つが日本だ。背景にあるのが、国内世論。私たち国民の8割以上が、死刑制度を支持していると伝えられている。

 国家権力が人命を否定する死刑制度を、私たちは今後も温存すべきなのかどうか。この根本問題を、本作品はさりげなく問いかけていると思います。
真一

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