りっく

愛がなんだのりっくのレビュー・感想・評価

愛がなんだ(2018年製作の映画)
4.5
今泉監督作品ならではの単なるラブストーリーを超えた、もっと人間の本質的な部分をまさぐり掴もうとする傑作。原作の力も借りてか、今泉監督作品では珍しく直接的な肉体関係を描いており、また
過去作と比較しても、見様によっては一番残酷で厳しい現実を突き付けている。そのような意味で、今泉監督がまたひとつステップアップした印象を受ける。

本音と建前を使いこなしうまく生きようとする人間と、自分をさらけ出して嘘をつかずに生きようとする人間。だが、そう周囲から見えている人間も、一方でそんな自分に悩み苦しんでいる。岸井ゆきのは成田凌に、成田凌は江口のりこに、若葉竜也は深川麻衣に、それぞれ一方通行の想いを抱いている。好きというベクトルが数珠つなぎのように連なる人間関係と、だからこそ成立する自分の存在意義。もはやこれは愛なのか、恋なのか。友だちなのか、知人なのか。

そこから抜け出そうとすると、自分を見失うことになってしまう。若葉竜也が岸井ゆきのに大晦日の夜、こたつに入りながら言う「幸せとは何か。」除夜の鐘が鳴り響くこの場面は、まさに煩悩に悩まませられる人間そのものであり、だからこそ吹っ切れたような顔で幸せを笑顔と涙で追いかける若葉竜也に泣かされる。彼が出演する場面は心に深く刻まれる名シーンばかりだ。

そんな写真家の卵のような彼は、個展を開き、過去を写真によって閉じ込めることで、客として来た深川との新たな関係性を想起させる。一方で、おそらく冗談で33歳になったら飼育員になると言った成田凌の言葉を信じて、ラストで象の飼育員になっている岸井ゆきの。

その悲劇性は「時をかける少女」で深町一夫を追って薬学博士になり決して成就しない恋を永遠に追い続ける迷宮に閉じ込められた原田知世を髣髴とさせ、胸が締め付けられる。片思いで保たれていた自己の存在意義や関係性の残骸にも見える。
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