ゲルハルト・リヒターの映画を観に行ったつもりだったが、リヒターのエピソードから連想して作られたと思しきリヒターとは縁もゆかりもない通俗的で水準の低いメロドラマとビルドゥングスロマンをないまぜにしたような安っぽい何かだった。
仮にもリヒターの半生を題材なり素材なりにしたと称するなら、東ドイツ時代に作成した公共建築の壁画を素朴な社会主義リアリズムとして再現ドラマ風に撮るのはリヒターへの侮辱だろうと思う。実際には「ちょっとイデオロギーを小馬鹿にしたような」「どことなくキュビスムが入ったような」ものだった。
リヒターは「いかなる形であれ、私の名前と絵を使用することは許さない」という旨を書面で監督に渡したのに、監督はリヒターの名前を映画に結びつけるあらゆることをやってのけ、メディアも全力で監督を補助したらしい。
リヒターは「彼は私の生涯を乱用し、グロテスクに歪めた」と激怒しているとのことだが、むべなるかなである。