Kachi

ラストレターのKachiのレビュー・感想・評価

ラストレター(2020年製作の映画)
3.8
【岩井俊二なりのLove Letterの更新】

脚本・監督を岩井俊二氏が手掛けていることもあり、本作は同じく手紙を扱ったLove Letterをどのように昇華させていくかを思案したものだと思った。では、実際その試みはどれだけうまくいったか?というのは受け手に委ねられているわけだが、岩井俊二監督だから実現できた、という印象を抱いた。

メッセージアプリが使える昨今、手紙でのやり取りを発生させるためには、かなりの説明負担がかかる結果となる。Last Letterでは、スマホの水没ということになっているが、データの復元が比較的容易になった今となっては、辻褄合わせが少し難しくなった気がしており、「岩井俊二監督だから」という忖度をした上で観るのが、ちょうどいい鑑賞態度なのだろう。

実際、未咲のフリをした裕里から送られた手紙が、乙坂の手に渡り、途中からは未咲の手紙の書き手が増えて奇妙な往復書簡の三角関係が出来上がるところは、笑ってしまった。無邪気な高校生を演じる広瀬すずと森七菜は、たしかに高校生男子が一目惚れするには十分な透明感があるし、小説家となった乙坂を初恋の相手とする裕里が結果的に結婚するのが岸部野(庵野秀明)という配置も、実際の俳優を意識してみると妙な納得感があった。

本作におけるLast Letterとは結局何だったのか?素直に解釈すれば、母から子に遺言の体裁で託された母の卒業生代表の祝辞であった。もっと言えば、これは未咲と乙坂の合作であり、二人から子(あゆみ)に宛てた今後の人生へのエールであった。ここだけ見れば美しいドラマなのだが、野暮なことを書くと、肝心な美咲と乙坂の別れの理由が欠落していたがゆえに、イマイチ説得力に欠けたところがあった。

大学生の男女の恋愛なんてそんなものだと言われればそれまでだが、学生時代の乙坂にどんな欠陥があったのか、未咲との間にどんなすれ違いがあったのか…?未咲を主人公とした小説から、関係者は何を受け取ったのか?未咲は何度も読み返したことは子から伝えられるが、これは未咲側にも落ち度があり、後悔先立たずということなのだろうか…?

未咲と乙坂が、幸せに生活を共にする世界線を十分には共有できなかったことが、本作の一つの瑕疵であるような気がしており、むしろそこさえ出来ていれば、邦画史に残る名作になっていたような気さえした。
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