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惡の華のマーチのレビュー・感想・評価

惡の華(2019年製作の映画)
3.8
集大成的井口昇作品にして、純然たる押見修造原作の映画化。

(正直なところ)人を選ぶ作品だと思うけど、その選ばれた人にとっては強烈に深く刺さる作品で相違ない。
実際、私の近くに座っていた人は鬼気迫るシーンでも滑稽だとばかりに笑っていたけど、少年少女期に自分と向き合う時間を過ごしたことのある人ならこの作品のテーマに共振するはず。

確かにクサい“ザ・邦画的”なシーンは多々あるけど、それも込みでメジャーだろうが御構い無しの井口昇作品だったし、もはや露骨なまでに押見作品のコマ割りをカット割りで成し遂げていて、井口昇監督がこれまでの井口美学とでも言うべきセオリーを遺憾なく発揮していることに感動してしまった。変態的なシーンも振り切って(というよりいつも通り)ガッツリやってるし、押見原作を下敷きとして井口フェティシズムにちゃんと昇華させていたのもお見事だった。

田舎と都会の差の出し方、グチョグチョなものと純粋なものの棲み分け、鬱屈とした感情の行方(移行のさせ方)、時間を軸をイジった構成など、原作を大事にしながらも映画として表現する際の葛藤を感じさせる拘りある作りになっていて、そこにもかなり好感が持てた。

脈絡ない音楽の挿入とか「うーん」って感じもするけど、厨二的要素は井口作品の十八番だし、この作品が“かつてあの時期を過ごした大人たちへ”というよりは“今葛藤して悩んで絶望の淵に立っている青少年少女たちへ”より強く向けられているものだと思うので、そんな人たちのもとへ届いて少しでも救われる人がいるといいなと思います。
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